浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表
はじめに ニボルマブ(商品名オプジーボ)は、PD-1 (pro-grammed cell death-1)に対するモノクローナル抗体である。免疫チェックポイント阻害剤として免疫力を高め、がん細胞を攻撃し、安全で効果的に抗がん作用を発揮する、という点が強調され、患者1人の年間薬剤費が3000〜4000万円に達する高薬価が設定された。2015年12月に非小細胞肺がんが適応となったことから、その費用が年間1.75兆円にも達する恐れが指摘されている。
害反応として、劇症Ⅰ型糖尿病や重症筋無力症をはじめ、各種自己免疫疾患が生じる1)。その機序に関しては、過度の免疫反応によるという主張が、メーカー1)に限らず、大勢のようである。
しかし、そうではない。むしろ、正常の免疫システムを阻害し、免疫を抑制することにより、これら自己免疫疾患をはじめ、感染症の増悪や、がんそのものが進行することが、ニボルマブの害反応の真の姿であることが判明した。薬のチェックTIP誌No662)で分析した内容を要約して紹介する。
PD-1/PD-L1システムと癌の抑制、進行 細胞傷害性T細胞には、異物細胞をアポトーシスさせる受容体タンバクPD-1が発現し、がん細胞やウイルス感染細胞などを排除する。
しかし、PD-1に結合するリガンドタンパク(以下、PD-L1)が発現するがん細胞は、細胞傷害性T細胞の攻撃を免れることができ、増殖する。
PD-L1が高発現するがんにニボルマブは有効だが ニボルマブが細胞傷害性T細胞のPD-1受容体に結合するとがん細胞のPD-L1がPD-1に結合できず、細胞傷害性T細胞を再活性化し、がんを縮小させるとされる。従って、ニボルマブのがん進行抑制は、PD-L1が発現しているがんに対してだけである。
正常免疫機能に必須のPD-1/PD-L1システム メーカーが示す一般的なニボルマブの作用機序や自己免疫疾患の発現機序の説明には登場しないが、PD-L1はがん細胞だけではなく、抗原提示細胞(APC)や単球-マクロファージ、血管内皮細胞、制御性T細胞など正常の免疫細胞にも発現する。そのため、ニボルマブはこれらの機能をも阻害するのである。
APCに発現するPD-L1が作用できなければ、細胞傷害性T細胞はAPCを攻撃するため、ウイルスや細菌など病原体を認識できず、自らの体内にできた異物の認識もできなくなり、感染症の悪化やがん進行につながり得る。
制御性T細胞に発現するPD-L1が作用を失い、細胞傷害性T細胞の攻撃を受ければ、免疫反応・炎症反応が収束せず、自己免疫疾患が生じる。従って、この場合、ニボルマブは免疫抑制剤として働いている。ニボルマブによる自己免疫疾患の発現は、過度の免疫反応1)ではなく、免疫抑制による2)。
APC抑制とがんの進行(PD) 非小細胞肺がんは、扁平上皮肺がん、非扁平上皮肺がん(非扁平肺がん)ともに、PD-L1の高発現例でのみ、全生存期間(OS)の延長を認めた。非扁平肺がんではがん進行(PD)が対照群の約2倍に達し、PD-L1低発現非扁平肺がんでは、試験開始初期の死亡がニボルマブ群に多かった2)。APC抑制のためであろう。
参考文献 1) 小野薬品、適正使用ガイド https://www.opdivo.jp/contents/pdf/open/guide.pdf 2)薬のチェックTIP http://www.npojip.org/chk_tip/No65-file09.pdf
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