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未来の会

「医師の地域偏在」の解決策を立体的に討議

「医師の地域偏在」の解決策を立体的に討議

NPOォーラムに医療人、 自治体、官僚、医学生が集まる  医師不足の主因として、医師の地域偏在が指摘されているが、その具体的な解決策を多様なステークホルダーで討議する会合が開かれた。東京・新宿区の早稲田大学で6月11日に開かれたNPO「全世代」の第2回フォーラムで、医療人、自治体、研修医・医学生、保険者、メディア、官僚が全世代の提言に対して意見を交わした。

医療圏を3区分し2種類の保険医登録  このユニークな名称のNPOは、旧社会保険病院などを統合し、新たに設立された地域医療機能推進機構(JCHO)の尾身茂理事長が呼び掛けて昨年10月に発足。代表理事として、評論家の大宅映子氏、元最高検検事で弁護士の堀田力氏の他、多様な若者層が名を連ねる「参加型市井会議」で、日本の将来のための政策提言や啓発活動を行っている。

 全世代では医療分科会を設置し、まず医師の地域偏在をテーマに取り上げ、国立病院機構元理事長で全世代代表理事の桐野高明氏らを中心に8回にわたって討議し、提言をまとめた。タイトルは「医師の地理的偏在の解消に向けて」。具体的には「保険医登録や保険医療機関の管理者になるための条件として、原則として後期研修を終えた医師に対し、深刻な医師不足地域に一定期間勤務することを求める」というもの。

 医師不足地域については、独立した第三者が作成した都道府県地域医療構想圏(二次医療圏)ごとの医師数など客観的なデータを基に全医療圏をA、B、C(Cが最も深刻)の3種に区分。これに加え、都道府県は島しょや過疎地域に限定した特殊地域Sを設ける。

 その上で、保険医登録を全国共通に統一し、保険医登録証を一種登録証と二種登録証に区分。一種は医師免許取得時に全員に授与するが、二種は臨床研修の終了後の勤務実績によって、前述のA〜Sの区分に沿って次のような設定を考えている。●地域医療構想圏A(新規の保険医登録の実績にならない)●地域医療構想圏B(2年の勤務実績により二種登録証を授与)●地域医療構想圏C(1年の勤務実績により二種登録証を授与)●地域医療構想圏S(6カ月の勤務実績により二種登録証を授与)。

 つまり、都会に当たるA地区ではいくら医療行為を行っても保険医登録の実績にはならないが、医師不足の深刻度が増す地域ほど短い勤務期間で二種の保険医登録ができる仕組みだ。

 一次登録証と二次登録証の効力・定義については今後の国民コンセンサスが必要とし、二つの選択肢を示した。一つは、二次登録証を取らず一種登録証のままでも通常の保険診療を続けることができるが、保険医療機関の管理者にはなれない。もう一つは、一種登録証のままで保険診療をできる期間を例えば10年と限定し、その後、二種登録証を保持しない医師は保険診療を行うことができないし、保険医療機関の管理者にはなれない、というものだ。

 提言が実現された場合の効果として、①医師の地理的偏在が医師個々人の大きな負担なく短期間に改善される②医師が第一線の現場を経験することにより、視野が広がる③若手医師が参加することにより、地域医療が活性化する④若手医師に教育を行うことにより、指導医の向上につながる⑤一部の医師だけに地域医療の負担をかける状態が改善される——を挙げる。

 フォーラムではまず、医療分科会の中心となった桐野氏が日本の医師数の実情から話し始めた。

 「日本の医師数は国際比較でも人口10万人当たり230人と少ない方に入る。OECD(経済協力開発機構)の平均である人口1000人当たり3.2は超えた方がいいという議論が活発になっている。現在、医師は毎年4000人ずつ増えている。一方で人口は減少していくのだから、早ければ2024年、遅くとも33年には人口に対して適正な数になり、その後は過剰な方向に向かう」。問題なのは「数」ではなく「偏在」だという。

 「都道府県ごとにみると北海道や太平洋沿岸は少ない地域となっている。しかし、県別でみるだけでは不十分で、二次医療圏では関東地方でも密度が濃いところと薄いところが隣り合っていたりする。保険料を納めても医療が受けられない状況を避けなければ」と、危機感をあらわにした。

国民的議論に乗せることが大事  その後、さまざまな立場のステークホルダーたちが提言などについて相次いで意見を述べた。

 医療現場の代表者の一人として、赤字の自治体病院を立て直してきた塩谷泰一・高松市病院事業管理者は、「高松市で三つの病院の管理運営をしている。旧市街地にある市民病院は医師の数に苦労はしていないが、旧塩江町立病院は10人が2人に減り、旧香川町立病院は15人が2人になって病院から診療所にしなければならない状況に陥った。医師確保対策には何が望ましいか。社会的共感を得て国民議論のテーマに乗せることが大事な問題」と訴えた。

 自治体側として、坂元昇・川崎市健康福祉局医務監は「提案には基本的に賛成。地方では新専門医制度が始まることが地域偏在を助長するのではと懸念している。地方でも協議会を設けるなどの対策を取るように呼び掛けているが、動いているところは多くない」と、関係者が一体となって対策を練る必要性を指摘。

 保険者の立場から河内山哲朗・社会保険診療報酬支払基金理事長は「日本の医療制度を踏まえると現実的で、医療現場の納得が得られれば実現可能な提言と考えている。初期段階として緩やかな資格のルールを決めていけば、そう違和感もないのではないか」と話した。

 メディア側として、厚生労働省の医師需給分科会委員も務める本田麻由美・読売新聞社社会保障部次長は「私は10年前にも需給分科会に参加したが、同じ議論をしていた。今回違うのは病院や団体も医師会も何らかの明確な具体策を取らなければという発言に変わっている。数ではなくて偏在の問題だ。医師のキャリアアップに結び付けた上での配置が大事」とアイデアを出した。

 指名発言に立った釜萢敏・日本医師会常任理事(地域医療担当)は「先々の見通しが分かるような仕組みの周知をしてから始めることが必要」と話した。厚労省から参加した迫井正深・地域医療計画課長は「検討するスコープの中には入っていると思う。(地域割の)線引きの問題は議論が必要」と述べた。

 若い世代の発言として、東京医科歯科大学医学部4年生の女性は「勝手に決めて若い世代に押し付けた形にならないようにしてほしい。全ての人が納得できる形で導入してほしい」と訴えた。

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