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消費増税延期の口実にサミットを利用した安倍の虚言

消費増税延期の口実にサミットを利用した安倍の虚言

その魂胆は各国の首脳・メディアに見抜かれた  5月28日から29日にかけ、全国の18歳以上の1000人を対象に実施された「政治に関するFNN世論調査」(電話による対話形式)によると、「伊勢志摩サミットは成功だったと思いますか、思いませんか」という質問に対し、「思う」が71・9%に達し、「思わない」の15・9%を圧倒した。

 本来、1975年に始まった「主要国首脳会議」(サミット)は何かの共通施策を加盟国に強制するような性格からほど遠く、「顔合わせの場」以上でも以下でもない。そのため、「失敗したサミット」と評された過去の例もあまり聞かないのに、いきなり「成功だったと思いますか」と真顔で愚問を発するあたりは、いまだ「国際」というターム、あるいは「国際的」という形容詞が意味もなくありがたがられる、この国らしい光景に違いない。

 それでもこの数字は、わが国の有権者が、もはやまともな判断力を喪失しており、いかに政治が致命的に危うく、かつ無軌道な動きを示そうが、国民の側から実効ある批判力は何も発揮されないという絶望的な現状を、改めて浮き彫りにしたといえよう。なぜなら今回、戦後における歴代首相が参加した数々の国際会議において、疑いなく最も異常を極めた言動が記録されたからだ。

 今回の「71・9%」に属する回答者のみならず、一般の有権者は、「実際に何が起きたか」という事実関係になど無頓着であり、もともと興味すらないのであろう。

 だが、サミット期間中から6月1日の記者会見に至る時系列で安倍が示した醜態は、特筆に値する。極め付きは、まず世界の主要メディアから散々な酷評を浴びた「リーマン・ペーパー」だ。

 5月26日に安倍は、参加国首脳に①世界の商品価格②新興国・途上国の経済指標の伸び率③新興国への資金流入④各国の成長率予測の推移—という四つのデータが提示された日英語両版の「ペーパー」を唐突に提示。そして、世界経済が「リーマン危機前夜」に相当すると述べ、2008年7月の洞爺湖サミットが、それから2カ月後のリーマン危機を防げなかった「轍を踏んではいけない」とまで、説教がましく口にした。

月例経済報告と正反対の内容  そもそも、参加7カ国で15年度の成長率が0・5%と堂々最下位の日本が、他国に「轍」がどうのこうのと言う資格があるはずもない。それに日本語版には「リーマン・ショック」という用語が実に11回も登場する「ペーパー」がうそ八百であるのは、サミット開幕3日前に内閣府が発表した、『月例経済報告』が雄弁に示していた。

 そこには「景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」「先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される」と、正反対の内容が明記されていた。

 当然、参加国首脳もあきれ顔で「危機、クライシスとまで言うのはいかがなものか」(デーヴィッド・キャメロン英首相)と相手にせず、今回採択された「首脳宣言」にも、「リーマン」の「リ」の字もなかったのは言うまでもない。加えて、欧米主要メディアの批判も容赦なかった。

 例えば、「世界経済が着実に成長する中、安倍氏が説得力のない08年との比較を持ち出したのは、安倍氏の増税延期計画を意味している」(英『フィナンシャル・タイムズ』)、「安倍氏は深刻なリスクの存在を訴え、悲観主義で驚かせた。自国経済への不安を国民に訴える手段にG7を利用した」(仏『ル・モンド』)、「あまりにも芝居がかっている。増税延期計画の一環だ」(米CNBC放送)等々といった具合だが、これほど開催国の首相が叩かれたサミットも、41年の歴史でまれだ。今回の「伊勢志摩サミット」は、「成功」どころか「失敗したサミット」の珍例として、記憶に残るのは疑いない。

 そして、前述の各国メディアからも見抜かれているように、安倍の魂胆は17年4月に予定していた消費税の8%から10%への増税延期の口実に、サミットを利用することだった。なぜなら、安倍はかねてから消費税増税を再度見送る条件の一つとして、「リーマン・ショック級の経済的危機」発生を挙げていたからだ。つまり自分の失政を棚に上げ、「世界経済の危機」をサミットで演出して、あわよくば増税延期の雰囲気を演出しようとしたのだ。

 だが、ここでもウソが露見する。安倍は、総選挙直前の14年11月18日の記者会見で、「15年10月実施予定の消費税率引き上げの18カ月延長」に関し、何と言っていたのか。

 「(引き上げを)再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。……平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」——。

 安倍の「決意」など、いつもこの調子だ。「経済状況をつくり出す」のが破綻したから、また「再び延期」しようとしているのであって、何としてでも「景気判断条項」が欲しいから、サミットで「リーマン危機前夜」というありもしない捏造話を触れ回ったのではなかったのか。

 それがしくじると、安倍は5月30日の自民党役員会で、驚くべき発言をした。「私がリーマン・ショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、全くの誤りである」というのだ。ならば欧米主要メディアのサミット報道は、ほとんど誤報だったのか。しかし、このところとみに安倍色に染まっている外務省あたりが一度も抗議した形跡がないのは、なぜなのだろう。

公約の意味をなくす「新しい判断」  とどめが、この「誤報」という決め付けの末に来年の消費税率引き上げ断念を表明した、6月1日の記者会見だった。

 「(リーマン・ショック級の事態が発生していないにもかかわらず)今回、『再延期する』という私の判断は、これまでのお約束とは異なる『新しい判断』であります」——。

 これが日本語の正しい文法にかなっているかどうかは別にして、その都度「新しい判断」なるものが持ち出されたなら、公約など意味を持つまい。もうこの国では、まともな政策論議が成り立つ余地が限られてきた。首相としてどれほどデタラメを重ねようが、支持率低下をさして気にもする必要がないからだ。

 際限なく虚言を繰り返す安倍とは、とうに破綻した「アベノミクス」を、いまだ66・7%が「道半ば」(前述FNN世論調査)などと冗談のような回答をする、思考力と国政への責任意識が朽ち果てた「多数派」という名の腐植土に咲いたあだ花なのだろう。あだ花なら、いつか枯れる。だが腐植土がさらに拡大している点にこそ、この国の真の危機がある。

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