超高齢多死社会の到来に向け 「臨床宗教師」の養成に取り組む
島薗 進 日本臨床宗教師会理事長、上智大学大学院教授、 上智大学グリーフケア研究所所長
死を前にして苦悩を抱える患者や家族、あるいは大切な人を失い悲嘆に暮れる遺族を対象に、相手の心に寄り添う心のケアを行う臨床宗教師。数年前からいくつかの大学で養成が行われており、今年3月には日本臨床宗教師会が設立された。超高齢多死社会の到来を前に、その必要性は高まっているが、将来に予定している資格認定までには、いくつか解決しなければならない課題があるという。
——3・11を境に日本人の死生観が変わったということはありますか。
島薗 東日本大震災だけが切れ目ということはありませんが、徐々に起きていた変化が、はっきり見えるようになってきたといえるかもしれません。例えば、死者を悼むのに宗教が大きな役割を果たすという意識が出てきました。阪神淡路大震災のときは、心のケアは精神科医や臨床心理士が中心でしたが、東日本大震災では宗教者が大きな役割を果たしました。慰霊碑も阪神淡路大震災のときは宗教色のないものでしたが、東日本大震災後は仏教的な慰霊碑が多いようです。伝統的なものに懐かしさを感じる時代になっているのです。科学や合理主義では扱い切れない問題が存在することを強く意識するようになった、といってもいいでしょう。時代的にいうと、阪神淡路大震災の頃は、経済発展が未来を明るくするという雰囲気がまだ続いていました。その後、バブル崩壊の深刻な影響が及んできて、伝統を懐かしむ空気が生まれてくるわけです。また、都会と地方という違いもあります。東日本大震災の被災地は田舎が中心なので、伝統的な宗教が身近だったのでしょう。
——現代人は宗教的な活動への関心が薄れているように思えますが。
島薗 確かに一方では、伝統的な宗教行事や宗教的な考え方から距離を取ろうとしています。葬式や墓の在り方を見ていくと、特に都会では軽くなっていて、葬式はあっさり終わりますし、合同供養墓や期限付きの墓なども登場しています。法事でお寺に人が集まるということも少なくなっているようです。しかし、人が亡くなることに対して関心がないのかというと、そうではなくて、「終活」(人生の終わりのための活動)の本が売れたりしています。映画や漫画の題材にもなっていて、関心を持たれているのです。日本映画『おくりびと』(2008年)は大変話題になりましたし、イギリス・イタリア合作映画『おみおくりの作法』(日本公開は昨年)も予想外の大ヒットだったそうです。私が観に行ったときも満員でした。死者と生者の交流を、かつては宗教が担当していたわけですが、それが薄くなってきたために、何か代わるものを求めるという意識が現れてきているように思えます。
急速に広まったグリーフケア ——「グリーフケア」が注目されていますね。
島薗 家族や親しい人を失った後に体験する状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼んでいます。グリーフに陥った人に行うケアが、グリーフケアです。この言葉が使われるようになってから、まだ10〜15年しかたっていません。急速に広まってきました。取り返しのつかない悲しみや、理不尽な死に伴う苦しみを抱えた人に対して、スピリチュアルなケアが必要とされるようになってきたわけです。医療の分野でも、それを意識するようになってきました。がん対策推進基本計画ができ、全てのがん治療認定医の緩和ケア研修修了が目標となったのも、そういったことが背景になっています。 続きを読むには購読が必要です。
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