浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表
はじめに
ワクチンの有効性や害を評価する際に、ランダム化比較試験でなく、観察研究として接種者と非接種者の疾患罹患率を比較する場合、最も気を付けなければならないのは病者除外バイアスである。接種者は健康な人が多く、病気勝ちの人にはワクチン接種が控えられるため、接種者と非接種者の、その後の罹患率を比較するとワクチンが無効・無害の場合、ワクチン非接種群に疾患罹患率が大となる。これは通常healthy-vaccinee effectsあるいはfrailty selection biasとも呼ばれるが、筆者は「frailty exclusion bias=病者除外バイアス」を用いている1)。
インフルエンザワクチンが死亡を80%減少したなどというのは、まさしくこの、病者除外バイアスの影響を受けた結果である。
HPVワクチン接種後の重篤な反応とワクチンとの因果関係を疑問視する疫学調査やそれを元にした因果関係否定の考え方では、この病者除外バイアスを考慮していないために、結論を誤っている2)。
名古屋市の調査では、HPVワクチンと接種後の諸症状とは無関係とする中間解析の結果が昨年12月に示された3)。接種率が85%超、90%近くであったため、病者除外バイアスを大きく受けることになる。薬のチェックTIPNo65では、病者除外バイアスの理論的根拠と、実際的な問題点、名古屋調査の結果から、被害の実態を把握するための最も適切な方法について提案した4)。その概略を紹介する。
名古屋調査の問題点
名古屋調査では、非接種者において、簡単な計算ができなくなった、普通に歩けなくなった人が、年齢が1歳上がるごとに1.39、1.38倍増えるとされた3)。この割合で有症状者が年齢とともに増加すると、26歳では15歳の30倍超、30歳では100倍超、37歳で1000倍超、44歳で1万倍超、51歳では10万倍超となる。
このあり得ない数字は、年齢のためではなく、85〜90%という高接種率のため、残り約10%の非接種者に「病気がち」の人が集中したと考えるべきである。
病者除外バイアスまたは健康者接種バイアス
「病者(ハイリスク者)」がa、健康者がb=1-aの割合でいる集団を想定し、接種率c、非接種者d=1-c、病者にも健康者にも均等に接種した場合の接種病者acのうち、eの割合で接種から除外されてaceが非接種になり、代わりにaceの健康者に接種されたとする。出発点で非接種群に対する接種群の病者のオッズ比は、OR =((ac-ace)/(bc+ace))/((ad+ace)/(bd-ace))となる。
除外割合eが0(ゼロ)でない限り、接種群の、非接種群に対する病者のオッズ比は、常に1.0を下回る。これが、「病者除外バイアス」の理論的根拠である。
バイアスを最小にする方法は 名古屋調査では、接種前の日頃の健康状態を問うていないため、HPVワクチン接種前頃の健康状態による調整ができない。しかし、同生年者における有症状オッズ比を計算すれば、年齢調整の必要はない。完全に病者除外バイアスが消えるわけではないが、病者除外バイアスが最も小さいはずの接種率15%(15歳)におけるオッズ比を基準にして、他の接種率のオッズ比を補正するよう提案する。
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