SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

絵に描いた餅に終わりかねない「地域医療構想」

 地域医療構想について、医療提供側が病床の削減目標と受け止めている背景には、40兆円に到達した医療費の削減に国が躍起となっていることがある。厚労省も「治療不要な入院患者は数十万人」「こうした人は病床を出て、介護へ」と考えている。長期入院患者向けの療養病床の場合、患者1人当たりの医療費は、月額35万8000円〜59万6000円。一方、介護の老人保健施設の場合、27万2000円程度という。国はこのままでは25年度の医療給付費は54兆円へ膨らむと試算しており、同構想には医療費抑制につなげたいという国の意向がちらついている。

 糖尿病を患う福岡市の男性(78歳)は、郊外の療養病床に入院して1カ月になる。週に1、2度顔を出す長女(53歳)は夫と共働き。自宅には義母が同居しており、父が退院しても迎え入れることはできない。今の入院先は、以前に入院していた自宅近くの病院から退院を迫られ、ようやく見つけたばかり。長女は「また追い出されるなら、父はどこで生活したらいいのでしょう」と不安を口にする。

民間病院は簡単に病床削減に応じない

もし政府の推計に沿って病床削減が進めば、慢性期の患者30万人程度が病床を追われ、自宅や介護施設に移ることになる可能性がある。しかし、日本では今なお、8割の人が病院で死んでいる。介護施設の整備も進んでいない。受け皿を用意しないまま病床を減らせば、高齢者の行き場がなくなり、看取りの場が不足しかねない。

 ただし、地域医療構想が政府の想定通り進む可能性は決して高くない。経済協力開発機構(OECD)によると、人口1000人当たりの日本の病床数は14床。2位の韓国(9位)、3位のドイツ(8床)などと比べても、群を抜いて多い。欧米の場合、病院は公立が中心なのに対し、日本では8割の病院は経営主体が民間という特殊事情があるからだ。日本は73年の老人医療費の無料化によって病床数が爆発的に増えた。民間病院は一度手にした病床数を、おいそれとは手放そうとしない。公立病院なら国や自治体のコントロールが効くが、民間病院の場合はそうもいかない。

 日本では、病床をめぐる政府の政策が二転三転を繰り返してきた。それは、民間主体という日本の医療状況も絡んでいる。国が病院を縛る手段は診療報酬や補助金くらいしかなく、なかなか政府の思惑通り進まない。だからこそ、今回の地域医療構想に対しても、「本当に実現できるのか」との疑念を呼んでいるのだ。

 「うちは今の病床数を前提に、銀行から融資を受けている。仮に『急性期を減らせ』という指示に従うなら、事業計画を変更せねばならず、銀行は融資を引き上げるかもしれない。そんなリスクを負うわけにはいかない」。東京都内の中堅病院の事務局長はこう語り、「地域医療構想がうまく機能するとは思えない」と言う。自治体側からも「構想の真の目的があやふやで、必要病床数を弾くことはできても、絵に描いた餅に終わりかねない」との懸念の声が上がる。専門調査会の会長として報告書をまとめた前出の永井・自治医科大学長でさえ、目標通りの病床削減については「非常に難しい」と認めているほどだ。

 (現状の)各医療機関の機能別病床数と、地域医療構想で推計した必要病床数は一致する性質のものではないが、将来のあるべき医療提供体制の実現に向けて、(現状の機能別病床数を)参照情報として活用する——。3月10日、地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会で打ち出された一文は、各地の病床数を「必要病床数」にそろえるのか否か、よく分からない表記にとどまっている。腰の定まらない政府方針の先行きを暗示しているかのようだ。

3.5 rating

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top