第96回 お金が余っている 南淵 明宏(昭和大教授)
世の中にお金が余っている、という話はよく聞く。では、なぜインフレにならないのか。商品の供給過剰だからだろう。
「パンがない。だが、お金は皆が有り余るほど持っている」となれば、パンの値段は一斤100円から次の日には1万円、翌々日には100万円と値上がりするハイパー・インフレが起こるだろう。だが、パンは有り余るほどある。今、日本で生産された食材の3分の1は売れ残って捨てられるらしい。
一方、世界中の物品、土地に値段を付けた総額の30倍のお金が世界で流通しているといわれている。それでも各国中央銀行はせっせとお札を市場に投入して景気を回復させようとしているとか。
もちろん、お金がない貧困にあえぐ人は数多い。だが、とにかく物が余っている。いくら作っても売れない。値段は上げられない。利ざやはなくなり、もうからない。製造業に未来はない。
有り余ったお金を持ったまま、投資家はさぞかし困り果てていることだろう。投資家の仕事はお金でお金を生むこと。投資家のお金は物を買うためではない。人を雇うためのものでもない。お金を増やすためのお金である。常に「リターンは年利で何パー?」の世界である。実社会がどうなろうが、さしたる関心はない。
そんな中、必ず需要が見込める産業がある。健康を売る、いや、健康らしきものを売る産業らしき業種だ。
誰でも人間は死ぬが、永遠に健康でいたい。めったに会わない、電話もしない親だけれども、永久に健康でいてほしい。健康はどこでもいつでも誰もが「欲しがる」商品だ。いや「商品」にできる。
「みんな健康には『金に糸目を付けない』はずだ!」
誰でも考えそうなことである。
「でも、健康じゃない人はお金がないぞ」
これも正しそうである。
超高額な再生医療に大枚をはたく富裕層など世界中探してもそうはいない。
「貧乏人は安いものが好きだ。だが、金持ちはもっと安いものが好きだ」
とは、ある歴史的大富豪の言葉である。
再生医療のお客さんになるのは真の成金か、「政治資金を使って何が悪い!」と税金は全て自分が好きなように湯水のように使えると勘違いしているお殿様知事閣下ぐらいだろう。
だが、日本の医療には少しはお金を出してくれるタニマチがいる。健康保険制度である。「この範囲で経費カツカツで従業員をこき使いブラックにやればもうかる」と考える投資家もいることだろう。本当にもうかるかどうかは別として、もうかりそうな話に投資は発生する。作って売るより、お金を動かしてもうける。現物を扱うのではなく、何かを開発して普及させるのではなく、ただただ仮想の空間で数字をやり取りするだけの金融屋が世界を席巻している。
以上の理解が、皆さんの周りで起こっている異変の解釈に役立ちはしないだろうか。
特区の医療プロジェクトも、外国ファンド頼みだと聞く。どこまでもセコイ下品な政治家が主導するプロジェクトなら、当然か。売国政治家、棄民行政、お殿様知事、ゲス議員……。医療は彼らの狂乱のうたげの格好の座興にされているようだ。
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