虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
武田、ゲイツ財団、グラクソンを結ぶ負のライン
武田薬品は5月9日、「このたび、発展途上国におけるポリオ根絶を目指し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と事業提携契約を締結したことをお知らせします」とのニュースリリースを流した。
同財団からの資金助成で、死にも至る急性灰白髄炎を引き起こすウィルス・ポリオを「根絶」するため、武田が「革新的なワクチン製造」に乗り出して「発展途上国へ供給する」という。これについては、あのマイクロソフトの共同創業者であり、米『フォーブス』誌の世界長者番付で1995年から13年間、一位を譲らなかったウルトラリッチのビル・ゲイツが、「慈善事業」で武田と提携したという程度の受け止め方が、一般的だろう。
ワクチン接種で相次ぎ事件起こす財団
何やら善意の行為めいた印象すら覚えかねないが、問題はそう単純ではない。同財団が、インドでとんでもない大問題を引き起こしているからだ。
この財団は、2000年代に世界保健機構(WHO)などと組み、インド政府に「ヘルスプログラム」と認定させた上、子供たちにポリオワクチンを接種。11年にはインドで「ポリオフリー」が宣言され、財団は「成果」を誇った。ところが同年までに、ポリオとともに消滅するはずだった身体障害の急性非ポリオ弛緩麻痺(NPAFP)の患者が、確認されただけでも約4万7500人も出る結果に。
インド政府のポリオ監査プロジェクトは、ワクチンの接種率が上がるにつれ、患者数も増大しているとしており、デリーの2人の小児科医師は12年、ポリオワクチンの接種がNPAFPの急増の原因だとして、政府を批判する声明を発表した。
実は米国でも1988年、疾病予防管理センター(CDC)が、79年以降のNPAFP発病の主要原因は、ポリオワクチンの接種であることを認めている。つまり財団は、その事実を知ってか知らずか(知らなかったとしたら財団の資格が疑われるが)、インドでのポリオワクチン接種に熱中したことになる。
さらにインドでは、同財団が支援するシアトルのNGOのPATH(健康に関する適正技術プログラム)が政府の認可の下、効果の疑わしい子宮頸がんワクチンをアーンドラ・プラデーシュ州とグジャラート州の貧困地帯の9歳から14歳の少女約1万4000人に接種。その結果、5人が死亡し、異常出血や極度の胃痛などさまざまな副作用に悩む少女が続出した。このため14年には、裁判所がアーンドラ・プラディーシュ州の市民団体の訴えに基づき、このワクチンの安全性を証明するよう政府に求めるまでの事件に発展している。
同財団はこれ以外にも、自身が推進する発展途上国を中心としたワクチン接種の推進キャンペーンで、類似した事件をいくつか引き起こしているが、そもそもワクチンの効果と安全性については、長年国内外で多くの疑問が投げ掛けられている。
日本では、インフルエンザワクチンが46年間にわたって毎年約3000万人に定期予防接種されていたが、効果が証明されず中止に追い込まれた。しかも厚生労働省は、05年度に副作用の報告が56件、死亡数が3件あった事実を認め、さらに日本脳炎ワクチンについても、13件の健康被害との因果関係を認めている。副作用を訴える患者が続出して大問題になっている子宮頸がんワクチンに至っては、国とワクチンを製造した英国のグラクソ・スミスクラインらを相手取り、近く女性被害者が訴訟を起こす。
グラクソ元経営陣が武田入り
グ社は、前述のインドで問題を引き起こしたメーカーでもある。武田の現社長であるクリストフ・ウェバーが、グラクソ・スミスクライン ワクチン社の社長兼ゼネラルマネジャーであった事実は知られているが、グ社によって引き起こされた子宮頸がんワクチン絡みの事件と、全く無縁だったとは考えにくい。
そして、11年に武田の取締役チーフ メディカル&サイエンティフィック オフィサーなどの役職に就き、一時は8億3800万円もの法外な年俸を稼ぎながら、途中でいなくなった山田忠孝は、90年代にやはりグ社の研究開発部門会長および取締役だった。そして山田は武田移籍前の06年に、ゲイツ財団の世界衛生部門総裁に就任している。今回の武田と財団の提携は、山田の縁だろう。
こうしてみると、武田はワクチンが引き起こしたスキャンダルめいた問題と、いろいろな意味で交差していることが分かる。もっとも、スキャンダルといえば、武田にとってお手の物だ。糖尿病治療薬「アクトス」の膀胱がん発生リスクを隠していたとして米国で約9000件の訴訟を起こされたのは、戦後の医薬業界史に残る空前のスキャンダルだろう。加えて、高血圧症薬「ブロプレス」に関する臨床試験「CASE‐J」をめぐるデータ偽造と不正広告も、すぐ頭に浮かぶはずだ。
そもそも武田が得意顔で発表した提携話の相手のビル・ゲイツにしても、マイクロソフトの宣伝費の威光もあってか大手メディアは沈黙しているが、世界のまともな公衆衛生学者や環境NGOなら、彼の財団の活動を賛美はすまい。
ゲイツは10年に開かれた米カリフォルニア州ロングビーチでの招待客限定のミーティングで、「新ワクチンや保健医療 生殖関連で十分な成果を納めれば おそらく(世界人口の) 10%から15%抑えることができるかもしれません」(we could lower that by, perhaps, 10%or 15%percent)などと発言。そのため、異様なまでの世界中でのワクチン推進は、「慈善」ではなく「人口抑制」が狙いではないかと騒がれるに至っている。無論、本人は否定しているが、以前からワクチンの弊害については多数の事例が出ており、財団のワクチン接種も例外ではないのは事実だ。
根っからの米国崇拝で知られる武田会長の長谷川閑史なら、ビル・ゲイツと近づけるのは箔が付くかのように喜びたがるのだろうが、本当に自社のポリオワクチンを「発展途上国へ供給」して無事で済むだろうか。いかにも自慢げな内容のプレスリリースからは、そんな懸念は皆無に見えるのだが……。
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