虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
「グローバル企業」らしからぬ不祥事相次ぐ
「私は2003年にこの会社の社長になったとき、事業のあらゆる面で、グローバルに競争力のある会社にする、そのためには何でもやる、そう決めて変革を実行してきました」——。武田薬品会長の長谷川閑史は、『東京大学新聞』7月8日号(オンライン版)で、このように述べている。長谷川が社長になった当初、掲げた「成長戦略」のスローガンが「ダイバーシフィケーション(多様化)とグローバリゼーション」だったが、よほどカタカナの横文字と「グローバル」がお好きなようだ。
だが、経済界や言論界に腐るほどいるこの種のタイプの人間にとっては、「グローバル」といってもあらゆる意味で米国の枠を抜け出せず、「グローバリゼーション」とはしょせん「アメリカナイゼーション」と同義なのだ。特に長谷川の場合、滑稽なのは、その自家撞着ぶりだろう。自身が好き放題にやった結果、次々と露呈している不始末のどこが「グローバル」なのか、ということだ。
医療人らに対して金のバラマキ策
武田は、13年4月、自社製造の予防ワクチンの効果について論議する厚生労働省の「ワクチン評価に関する小委員会」を構成する6人の委員の一人だった宮崎千明・福岡市立西部療育センター長に対し、「寄付金」と称して「50万円超〜500万円以下」の資金を手渡していた事実が発覚している。こんないかにも悪質業者風情のことをやらかしておいて、「グローバル」だの「グローバリゼーション」だのが、どう自社の行いと関係しているのか。
武田のかつての4大主力商品だった降圧薬「ブロプレス」をめぐる、京都大学を主な舞台にした今春発覚のスキャンダルも同様だ。「ブロプレス」と他社の薬品を投与した高血圧症の患者を比較し、脳や心臓などの病気の発症差があるかどうかを解析した際、「有意差なし」としたものを、社員が研究者に働き掛けて、広告であたかも自社製品の発症率が他社より低いかのように工作した、業界トップ企業にしてはお粗末極まりない事件だった。おまけに臨床研究を主導した京都大学などに約37億5000万円もばらまいていたが、これもどこが「グローバル」なのか。長谷川は英語が自慢らしいが、横文字を振りかざす前に、自身が国内の企業倫理や社会的節度を学び直した方がいいだろう。国内だけではない。糖尿病治療薬「アクトス」をめぐる米国での不始末も、「グローバル」企業以前の話だ。武田は9月12日、糖尿病治療薬「アクトス」をめぐる米国での「副作用で膀胱ガンになった」とする製造物責任訴訟で、原告側と和解が成立する見通しになったと発表したが、和解金は23億7000万㌦(約2860億円)に達する。和解を受け入れた原告が96%超だが、これが97%超までいくと、24億㌦まで膨らむ。
一時は同社の売り上げの27%を占めていた主力商品が、3000億円近い和解金の出費原因となるのも、「グローバル企業」らしからぬ不祥事だろう。武田側は「当社のアクトスに対する考えに変わりはありません。当社は、米国および日本やその他の国々で糖尿病治療の選択肢として引き続きアクトスを提供いたします」と、訴訟を起こされた直後に「徹底的に闘う」と息巻いた割には、和解して居直りとも思えるコメントを出しているが、日本ではどうする気か。
すでに、かつての薬害エイズ訴訟を担った弁護団を中心に結成された「薬害オンブズパーソン会議」は2000年の段階で、厚生省(当時)と武田に対し、「心毒性、肝毒性、発がん性(膀胱がん)などの危険がある」として、販売中止と回収を求める要望書を提出している。武田がこれを無視した結果、今日の訴訟騒ぎがある形だが、日本でも「アクトス」をめぐる訴訟が起きたら、「グローバル企業」は和解するのだろうか。
その「アクトス」も、いかにも武田らしいスキャンダルに包まれている。11年6月、米国食品医薬品局(FDA)は、膀胱ガン患者の「アクトス」使用を禁止。添付文書も、そのように改訂させた。これを受けて厚労省も同月に開催された「安全対策調査会」の審議結果に基づき、「アクトス」の使用継続を前提にして添付文書の改訂を指示したが、内容は膀胱ガン患者に「アクトス」の「使用を避ける」というもので、FDAの姿勢と比較して大甘だった。
悪しき「グローバル企業」の典型か
ところが案の定、この「安全対策調査会」の植木浩二郎(東京大学医学部特任教授)参考人は、武田を含む3社から資金を得ていた。さらに、06年と08年の2回にわたり、「アクトス」の主成分であるピオグリタンの使用を推奨する座談会形式の記事に登場しているが、二つの記事には、何と末尾に「本ページは武田薬品工業株式会社の提供です」と記載されていた。以前から薬品業者と大学医学部の癒着は腐臭がひどいが、この「グローバル企業」は、いつも繰り返し利益相反に手を染めなければならないほど、自社製品に自信がないのだろうか。
もっとも、「国際的」という形容詞が最上のプラスイメージを伴って使用されているこの国のこと、「グローバル企業」などという呼び方も何やら同様なイメージがある。武田の実態とその「落差」をやゆできるのもそのためだが、「グローバル企業」と一口に言っても、中身は必ずしも模範的ではない。
武田現社長のクリストフ・ウェバーが以前、ワクチン部門の社長をしていた、国際大手の英グラクソ・スミスクライン(GSK)もひどい。日本ではけいれんや腹痛、リウマチなど、深刻な副反応被害者が続出している子宮頸がんワクチンの販売元だ。GSKは武田と同様、英国内では政治家や大学教授との利益相反問題には事欠かず、米国でも糖尿病治療薬「アバンティア」をめぐって訴訟が起き、抗うつ薬「パキシル」の未成年者販売では連邦検察局から告訴された。
もともと「グローバル企業」は、多国籍企業と呼ばれるケースが多かった。その多国籍企業が、第三世界で繰り広げた人権侵害や環境破壊、現地経済の疲弊化など、これまで繰り広げてきた悪しき事例は国連や海外NGO(非政府組織)の報告で事欠かない。「グローバル企業」の実態がこうであるなら、皮肉にも武田こそ典型的な「グローバル企業」と認めるのに誰しもやぶさかではあるまい。もっともこの皮肉は、米国かぶれの長谷川には通じまいが。
LEAVE A REPLY