SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

メッセージ

 川崎市は「転落死が続いたとき、不審を感じて立ち入り調査しようとしたが、Sアミーユから『警察から事故死と伝えられた』と言ってきたため、改善を求めるだけに終ってしまった」と語る。

 だが、Sアミーユ川崎幸町自身も連続転落死事件に不審を感じていたようだ。3件目の事故後、23歳の介護職員を当直から外している。それ以後、転落死は起こっていない。代わって今度は施設内での窃盗事件が頻発したという。どう見ても、23歳の職員に疑いの目が行かざるを得ない。

 ある介護福祉士によれば、「介護施設では過労やイライラから入居者への暴行、虐待が起こることがある。仲間内では大体、誰がやったか、ということは感覚で分かる。お互いに口にしないだけですよ」という。

 窃盗容疑で逮捕されるとともに解雇された23歳の職員は、横浜市内の高校を卒業後、医療系専門学校に入学し、救急救命士の資格を取得していたという。

 しかし、救急救命士の仕事にはつかず、介護職員になっている。同老人ホームの当直職員3人のうち、唯一、専門技術を持つ人物だった。救急救命士資格保有者が転落事件にかかわっていたということになったら、一体、どう理解したらいいのだろう。

 だが、真相は不明で終わりかねない。「Sアミーユ川崎幸町にはベランダや周辺を映す監視カメラが設置されていない。目撃した人もいない。証拠がなく、本人が否定したら起訴するのは難しい」(捜査関係者)という。

開業医が始めた「常識破り」の事業

 Sアミーユ川崎幸町の親会社メッセージは、1997年に老人用住宅の賃貸管理、介護用品の販売をスタート。全国に「アミーユ」と名付けた有料老人ホームと、「Cアミーユ」というサービス付き高齢者向け住宅を合わせて303施設を持ち、居者は1万6000人に上る。収益は約800億円に達し、2004年にジャスダックに上場。

 この大手有料老人ホームを一代でつくり上げたのが、医師でもある橋本俊明会長だ。岡山大学医学部を73年に卒業、外科医局に入るが、81年には橋本胃腸科外科医院(現岡山光南病院)を開業。その後、病院を大きくする一方、老人保健施設のグループホームをつくったのを機に介護事業に手を広げる。

 その手法は「常識破り」と老人ホーム業界では評している。かつての老人ホームの入居時の一時金が優に1000万円を超え、月利用料が30万円以上していたとき、橋本氏は入居一時金ゼロ、月利用料が17万円程度という庶民向け老人ホームを展開、瞬く間に拡大したのだ。

 橋本氏自身、周囲に「事業家に向いているような気がする」と語っていたそうだが、昭和50年代は一般的な医師が40代半ばになって開業を考える中で、医局勤務わずか8年で開業しているのだ。30代である。有料老人ホームの全国展開といい、良くいえば、まさに事業家、悪くいえば、〝医は算術〟を地で行ったような人物。それはアミーユの経営にも現われているという。

コスト削減で「介護の質」は悪化

 メッセージの老人ホーム事業は前述のアミーユ事業と、「地域包括事業」と名付けられたCアミーユ事業の2本立てだ。Cアミーユ事業はほとんど収益が上がっていない。それでも、橋本氏は「本来の介護は住み慣れた自宅にある」と唱え、Cアミーユの拡大を進めている。

 「理由はCアミーユを地域の拠点として在宅介護に進み、在宅介護報酬による収益を目指しているからです。厚生労働省は介護報酬を削減したが、これからも介護報酬は削減の方向だ。頭がよい橋本氏はCアミーユを拡大し、それを地域拠点として在宅訪問介護で利益につなげるということだろう」(あるアナリスト)

 訪問介護を行っているジャパンケアサービスグループを3年前に買収したことでも、同社の意図がうかがえる。

 ところで、連続転落死事件を起こしたSアミーユ川崎幸町は積和不動産との合弁会社、積和サポートシステム(後に完全子会社化)で建設した有料老人ホームで、黒字のアミーユ事業に属する。「低価格にもかかわらず黒字の理由は、徹底して無駄を省いていることにある」(業界通)といわれている。

 この橋本会長の〝算術〟が各地の老人ホームでの虐待事件につながっているようだ。

 ある有料老人ホーム経営者が言う。

 「認知症患者が入居する老人ホームは夜中に徘徊しないようにベランダのドアを施錠したり、場合によっては部屋のドアにも鍵を掛けたりする。廊下にもカメラを設置して転倒事故や誤って他人の部屋に入らないように予防する。最近は室内の監視カメラでベッドから起き上がったら映像が映るような優れたものもある。しかし、Sアミーユ川崎幸町には玄関に監視カメラがあるだけで、不測の事態に対処できるようになっていなかった」

 事故を未然に防ぐための余分な投資はしないことで利益を上げていたらしい。

 さらに、職員にも問題が多い。介護士は低賃金と仕事がきついことで慢性的な不足が続いている。

 加えて、政府は今年度から介護報酬を減額した。施設は減収を補うために介護士1人が受け持つ入居者数を増やす結果を招き、介護の質は悪化している。

 「介護士は奉仕の精神や思いやりがないと務まらない。しかし、アミーユは介護士不足を補うために、介護経験のない転職者やアルバイトを多く雇って利益率を上げている。痴呆症の介護は家族でさえ難しい。医師ならよく知っているはず。人件費は抑えたが、介護経験のないアルバイトや転職者では事故が起こりかねない状態を放置していた」(ある介護福祉士)

 Sアミーユ川崎幸町の連続転落死事件は起こるべくして起こったようだ。

0.0 rating

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top