第88回 医学部定員減 南淵明宏(心臓外科医)
新聞によると、医学部定員がまた減らされるという。2020年から始まるようだ。急性期病床が減ることや人口減、医療費の抑制、というのが理由のようだ。
私が学生のころ、つまり30年前の話だが、医学部の定員増の波があった。私が受験した1977年、奈良県立医大も前年の60人から100人に増員された。
だが、入学してしばらくすると、「このままでは医者が増え過ぎる」とかなんとかいう話になって、NHKで医療過密地域として地方の都市が紹介されていた。
その番組を観た人は「いやあ。こりゃ、お医者さんも大変だぁ」と思ったことだろう。
その後、ご存じのように、医学部定員は減らされた。
それが2003年ごろから、
「救急患者のたらい回し!」
「卒後研修制度の拡充で、大病院で医師不足!」
「地方ではさらにもっと深刻な医師不足!」
「先進国に比べて医師不足!」
という話になって、今度は医学部定員を増加しようということになった。
そのおかげでここ数年、地域医療枠を中心に医学部入学者定員は年々微増している。
とにかく、医学部の定員はその時々の理由で増減している。政策なのだから、仕方がない。
医者が増えれば、それを食わすための医療費は当然増えるし、減らせば、きっと医療費は減る。そういう線形な理屈は成り立つのだろうが、医療の質とどう相関するかは、もちろん議論のあるところだろう。
だが、昔と今はだいぶ事情も変わった。病院の風景、というか登場人物が増えた。医療の現場では多種多様なコメディカルスタッフが多数活躍している。
救急患者は総合病院、大病院にまず搬送されるシステムが全国に整備された。これでは行政が医療に掛けるお金も相当になるだろう。
そして、30歳前後の若い医者を目にしなくなった。彼らはどこへ行ったのだろう?
こういった現象は医学部定員の増減には全く無縁の、いや、ひょっとしてやはり非線形というか、なにがしかの複雑な相関を持つものなのだろうか。
医学部から毎年卒業生が世に輩出されているはずなのに、彼らはどこに行ってしまうのだろう。学術総会でもあまり見掛けない。
同世代の医師からは同じような不平不満ばかり聞く。
原因は診療科の偏在と思われる。
いうまでもないことだが、外科など、リスクがつきまとい、その割に実入りも少ない、そして拘束時間が長大な診療科が極端に敬遠されている。
定員の増減より対策を練るべきは、いわずと知れたこういった診療科の偏在だ。
2017年卒業の医師から専門医制度が大きく変わる。
研修を受ける、あるいは受けたと認定される病院に相当な制約が設けられる流れのようだ。
今のように、あまりに自由に診療科を決められて、どの地域でも仕事ができてしまう(結果都市に集中する)状態から、診療科の偏在を解消し、クオリティーをコントロールするには、ある程度の「支配」、あるいは強権は必要なのかもしれない。
今の医学生の世代に、いったいこれからどんな未来がやってくるのか、誰にも想像がつかない。
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