コンプライアンスをうたいなが 死亡例を含む副作用は未報告
厚生労働省は9月1日、ファイザーに対し、医薬品医療機器法に基づく業務改善命令を出した。同社が2008年10月から14年10月までの間、抗がん剤領域を中心とした11製品の医薬品で死亡9例を含む212例の重篤な副作用を、決められている期間内に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告していなかったことに対する業務改善命令である。
同社には安全管理統括部門があり、副作用事例は同部門に報告され、さらに同部門からPMDAに報告される体制が取られていた。ところが、副作用事例は医師から医療情報担当者(MR)に伝えられていたが、93人のMRは社内の同部門に報告していなかったという。
業務改善命令は最近ではノバルティスファーマ、武田薬品工業にも出されたが、そろいもそろって大手医薬品メーカーだ。厚労省はファイザーに対しては、大量の副作用報告を遅延したノバルティスに比べ、自発的に調査して発見、届け出たということで「悪質ではないが、組織的に欠陥がある」と判断し、組織改善をするように業務改善命令を出したという。
ファイザーによれば、今回の未報告は社内の安全管理統括部門が昨年10月に行った自主点検で、オンコロジー(抗がん剤)で有害事象の報告が同部門に報告されていない疑いが判明したことが発端だという。
「自主的な調査」と評価する厚労省
同社は「今年2月に即、厚労省に報告し、医療機関に対して調査を実施した。有害事象について担当医師に重篤性、転帰、抗がん剤との因果関係を聞き、PMDAに報告。さらに、オンコロジー領域以外の製品でも有害事象が報告されていないことがあるかどうか確認作業を実施した。その結果、やはり、営業記録には記載されていながら、安全管理統括部門に報告されていない事例があったため、それも担当の医師から聞き取り、合わせて5月末に報告した」と経緯を説明する。
説明を聞く限り、ファイザーは自主点検を怠らず、未報告の疑いを持つや、解明に努力した印象を持つ。厚労省も「自主的な調査」を評価したようだ。
だが、「悪質ではないが」といっても、それはノバルティスと比べて、というだけにすぎない。死亡9例を含む重篤な副作用事例を報告しなかったことの責任は重い。なにしろ、ファイザーは世界一の医薬品メーカーであり、コンプライアンス(法令順守)をうたい、社会貢献活動に熱心な会社として知られているからだ。
実際、報告されていなかった副作用が出ていた製品は、同社の主力製品である腎細胞がん治療剤の「スーテント」で145症例、同じく腎細胞がん治療剤「インライタ」で26症例、「トーリセル」でも23症例、非小細胞肺がん治療剤「ザーコリ」2症例。過活動膀胱治療剤「トビエース」で5症例、関節リューマチ治療剤「リウマトレックス」が4症例、同「エンブレル」で2症例、抗菌剤「ザイボックス」が3症例、真菌症治療剤「ブイフェンド」で2症例、同「プロジフ」でも1症例、疼痛治療剤「リリカ」の1症例で、副作用事例はオンコロジー領域に集中している。
ファイザーは「当該製品の安全性に新たな懸念事項は認められず、使用上の注意を改訂する必要はないという結論に達した」とコメントを出している。死亡9例があった5製品にはスーテントとトーリセルの抗がん剤2製品が含まれている。抗がん剤の効果には、がんの進行度や個人差により違いがあり、使用上の改訂をする必要がないことも多い。
不祥事の背景に「成長の終焉」
だが、患者とその家族は抗がん剤に期待している。コンプライアンスを厳しくし、社会貢献を大事にするファイザーが副作用事例を未報告にしたままだったとは、どう理解すべきなのか。コンプライアンスや社会貢献を重視した経営を行っているのはアメリカの本社で、日本法人のファイザーは別だというのだろうか。
問題の所在はMRを中心とした営業部門の自覚欠如と安全管理統括部門との連絡の食い違いということだけだろうか。
問題点はファイザーの昨今の勢いにあると指摘する声もある。ある医薬品アナリストは「世界的な大手医薬品メーカー、中でもファイザーの成長が終わったことと無関係ではない」と言う。
「今、製薬業界で話題になっている医薬品開発の中にファイザーの名前がない。世界に約200万人の患者がいるC型肝炎の治療薬では米ギリアドサイエンシスが開発したソバルディ(一般名・ソフォスブビル)と配合剤のハーボニが旋風を巻き起こしている。同社はインターフェロンフリーのソバルディで4兆円近い売り上げが見込まれ、並み居る大手を押しのけて売り上げベストテンに入ると見られている。タイプの異なるジェノタイプ2型のC型肝炎では、ブリストル・マイヤーズスクイブやジョンソン&ジョンソン、アッヴィがインターフェロンフリーのC型肝炎治療薬を開発しているが、この開発競争にファイザーの名前が見当たらない」
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