第86回 行政無残 南淵明宏(大崎病院東京ハートセンターセンター長、心臓外科医)
年金情報がまんまと抜き取られた。何がどれだけ、どの程度抜かれたのか。
事後の調査にも役人どもはうそデタラメ。電話での問い合わせでも加入者にうそをつきまくったそうだ。ベネッセでも500円くれたのに役人はうそで対応。
不祥事が二度と発覚しないよう、再発防止策を考えているのだろう。
役人が悪いのではなく、行政という制度そのものが性悪なのである。彼らは人物としては決して悪人ではない。だから始末が悪い。自分がいかに無慈悲で威圧的で不条理でか、気が付かない。
戦争はその典型だろう。先の大戦で飛行機に爆弾を載せて突っ込ませた戦術は言うまでもない。これぞ猛勇日本男児、心胆高揚覚止むを能わず。
「震洋」「桜花」「回天」も同様である。
が、およそ戦術とはいえない、残酷無慈悲極まりない戦術も役人の命令で実施された。
例えば、沖縄戦の「鉄血勤皇隊」の「切り込み」である。
「切り込み」と言っても銃剣ではない。爆弾入りの木箱を持って敵の戦車に突っ込むのである。戦車を破壊するには爆弾の量が足りないのでキャタピラーを狙い、ひかれるように突っ込むのである。この残忍な命令には誰もが言葉を失う。
これには「防衛要請」という省令で強制的に軍隊に編入された14歳から17歳までの官立沖縄師範学校の男子生徒が駆り出された。元沖縄県知事、大田昌秀氏はその生き残りである。
女子師範の「ひめゆり隊」や「白百合隊」の惨劇は映画化され、神風特攻隊と同様に我が国の歴史の根幹を形作っているが、「鉄血勤皇隊」の存在はあまり知られていない。
私も岡本喜八監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」で初めて知った。駅弁売りの格好で爆弾入りの木箱を抱えた少年が戦車に突入する。
この映画ではダイビングの名所となった座間味諸島の戦闘で、軍隊の命令で住民の一家が固まって布団をかぶって手弾で自決させられる衝撃的なシーンも紹介されている。
日本の軍隊は沖縄の人を憎んでいたのだろうか。
他に「伏龍」もある。先端に爆薬の付いた20mほどの棒を持って海底に潜み、水面を行く敵の上陸用舟艇の船底を突いてこれを破壊する、というものだ。
自国民に対し、「家畜人ヤプー」をほうふつさせる残忍さだ。
これはどうやら実施には至らなかったようだが、少なくとも横須賀周辺の若者が駆り出され訓練中に多数が事故死したと聞く。
行政の無慈悲さはさらに手が込んでいる。戦後、防衛要請の少年たちの死亡は軍事行動によるものとは認められなかったようだ。
明治憲法でも17歳以下の戦闘行為への徴用は禁止されており、憲法違反だったから。こんな責任回避も行政は平気でやる。どこの国も事情は同じかもしれない。
今後も役人は国民に対し徹底的に無慈悲、無理解、無責任であり続ける。
行政とは本来、そういうものだ。そう納得しておけば何が起ころうとも驚かないし、腹も立たない。
今後、高齢者の9割が下流に転落するという。鮮やかな行政手腕だ。
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