第85回 詐欺商法 南淵明宏(大崎病院東京ハートセンターセンター長、心臓外科医)
「この製品は心不全にも効果があります」
今時こんなバカがいるのか!
心底驚いた。
ある糖尿病薬(SGLT2阻害剤)の製品説明だ。
「心不全患者に投与したところイベントが対照群に比べて少なかった」というグラフが根拠らしい。
論理の地平線のかなたにある「説明?」に言葉を失った。
「心不全患者に対しても比較的安全に投与できる」と「心不全に効果がある」とでは大違いだ。
他社製品と区別するためインチキデータを集めて別の作用をでっち上げる……。そういう方向に持って行くのが「売れ筋路線」だというなら、もはや製薬業界は一切信用できないことになる。
店ざらしで「風化」待ちのディオバン事件の再来である。
それに「対照群に比較して……」と簡単に言うが、この対照群とは何なのか。
一切の糖尿病治療をしていない、という意味なのか、ライバル社のスーグラを使っている患者なのか、意味不明だ。
結局、何が言いたいのかよく分からないグラフなのだが、「厚生労働省に許可されたグラフ」ということである。プロプレスと同じ目に遭うに違いない。
こういうアホらしいグラフでクスリを売り歩くと、ややこしい問題に発展するぞ、と手紙で親切に教えてやった。
それにしてもSGLT2阻害剤にしろNOAC、ARBにしろ、よく似たクスリが多すぎる。
いっそ日替わりで患者にそれぞれ服用してもらうというのはどうだろう。各社が宣伝する効果?効能? 安全性? を全て満喫できる。あるいは全部混ぜて一剤にする、というのはどうだろう。これはいいアイデアだ。ぜひともやってみる価値がある。
「製薬会社がそれぞれ自社の製品がいい、というならそれを全部混ぜてしまえば最高の薬剤ができるじゃねえか!」
スーブラ、ホシガキ、ルシファー、アップルウェイ、カングル、ジャアデヤンス、粉々にして混ぜてしまうのである。
これぞ特許申請に値するすごい名案だ。
ひょっとして同系列のクスリは各社の製品全て中国から安く安く買った同じ成分の薬剤が名前と形状を変えて堂々と売られているだけだったりして……。
役所も製薬会社も何もかもが全く信用できない。
特に信用できないのは効能をうたうデータのグラフだ。
お金が掛かっている分だけ信頼性はない。
どの薬剤のパンフレットも私には詐欺のアイテムにしか映らない。
世の医師にはそう写っているのが製薬会社の広報部には分からないだろうか。「出版社に大金を支払うだけ」が広報部の仕事だと諦めているのだろうか。
出来上がってしまった「型」を打ち破ることなく、ただぶら下がっているだけの社畜どもの物。こんな表現が薬品宣伝パンフレットにはピッタリだ。
もちろん、製薬企業にも「心」はある。社会貢献への使命感、プライド、そんな魂の息吹を押し殺して、「売らんかな」の企業体質に流されている。
若手社員諸君の奮闘を期待したい。
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