第82回 裁判を受ける者 南淵明宏(大崎病院東京ハートセンターセンター長、心臓外科医)
耐震偽装ならぬ「免震偽装」事件が3月14日土曜日の朝日新聞朝刊の第一面に報道された。
紙面をめくると今度は同じ東洋ゴム工業のタイヤの美しいカラー全面広告が眼に入った。
最近のビルは地震のときの揺れを抑える最新の技術として、建物にゴムの足を履かせたような構造をウリにしているようだ。
そのゴムに製品として求められる特性があるのだが、大阪の江戸堀にある東洋ゴム工業という会社が建設会社に納入したゴムがその基準を満たしていなかった、というものだ。
報道では製品の特性データをして基準試験をパスさせていた、という悪質な詐欺行為があったという。
「動かぬ事実」が詳細に内部から告発されたのだろうか。
全国で55棟に既に使用されているとのことだが、個人住宅として分譲された多数の高層マンションの免震装置もこの詐欺被害に遭っているとのことだ。
いつぞやの耐震偽装に匹敵する免震偽装が列島に大激震を与えているのである。
それにしても、そもそも国土交通省の設けた基準(数値)の根拠やその信ぴょう性はどの程度のものなのだろう。
審査基準は実測値が基準値に適合するように、逆算した係数を実測値に乗じて算出しているのではないのだろうか。
さらにその基準値を用いた個々の製品の審査ってどんなふうに実施しているのだろうか。
製品の審査は書類の提出だけで有名無実化しているのではないか。
そしてこういった実情は免震ゴムだけにとどまらず、建築行政全般にわたり、資材、設計、全てに及んでいて、保身、談合、、汚職行政がまん延しているのではないか? 疑問は尽きない。
それに地震など起こったら、その時だ。施工時にどれぐらいコンクリートが節約されているかや、作業衣や雑巾、カップ麺のカップがどれぐらいの比率で混ぜ込まれているか、など計算で予測は不可能で、倒れるか倒れないかは運次第なのではないだろうか。
分かりきったことだが、我が国の理性と良識がこの問題を極限にまで化して、物件所有者の資産価値を護ってくれることだろう。
なぜなら「正義とは最大多数の人の最大限度の幸福のこと〜J.ベンサム」だからだ。
「真面目に基準値を取り沙汰して製品が不適合であった事実を世間に突き付ける行為で誰も幸福にならない!」
おそらくこの感覚が最大多数の最大限の正義なのだろう。
東洋ゴムは現地調査し、免震装置が要求を満たしているか否かを調査するという。
「3000ガルまで耐えられそうな測定値です」
「じゃあ、基準値をそう決めれば基準適合ですね」
これが彼らの調査なのだろう。
ベンサムは、
「正義をたがえた者は、1. 内部崩壊といった自滅的制裁 2. 法的制裁 3. 社会的制裁 4. 宗教的制裁、あるいは天罰、といった四つの制裁(サンクション)を受ける」
としている。
今回もこういった制裁を受けるのは告発者なのだろう。
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