第81回 学歴の先に待っているもの 南淵明宏(大崎病院東京ハートセンターセンター長、心臓外科医)
トーマ・ピケティの『21世紀の資本』が話題になっている。
私も早速購入した。学生時代に買った『ネルソン小児科学』同様、読み始めると瞬時に脳に定常的安静を与えてくれる名著だ。
資産の相続によって格差が継代培養され増幅する、というのがその主たる論旨のようだが、ちばてつや氏の上条茜が主人公の『みそっかす』に出てくる北小路秀麿の刷り込みのせいか、我が国の社会には「お金持ちの息子は甘やかされてアホ」「そのまた息子はそれ以上にアホ」という定説があり、ピケティ氏の富裕層継代増殖説は感覚的になかなか受け入れられない。
明治維新の傑物で誰でも知っている国家的英雄の子孫の方を二人知っているが、東京大学卒業と京都大学卒業で、「さすがに血筋!」と思わせる知的能力をお持ちだ。
だが、ご先祖は摂家のお公家さんであったはずなのに、学生時代はコンビニでバイトして生活していたというからやはり「富裕さ」を引き継ぐのは難しいようだ。
だが、ご両人のように知性はなんとか継承できるのかもしれない。
私の高学歴の友人でも、ご子息が医学部や東大、ハーバード大学、さらには三兄弟国立大医学部三連勝と華々しい「成果」を挙げている様子を見聞きする。successiveにsuccessfulである。
だが、そういうのが目立つからそう思えるのかもしれない。もちろん、高学歴だけが人生の成功ではないし、高学歴が継承されても人間性や人徳といったものもしっかりと継承されなくてはならない。
学歴の先に待っているのが御用学者であるなら「クソ食らえ!」だ。
よくよく考えれば、
「学歴が高いほど人生はボロい!」
という現実をご子息たちが正しく刷り込まれているだけなのかもしれない。
ここでいう「ボロい」は「楽してもうかる」という意味ではない。努力が報いられ、それに見合う報酬も得られる。
リーズナブルである、という意味だ。
その最たるものが医師免許である。
「医師の仕事はとにかく滅私奉公。献身の人生。今後なり手がなくなるのでは?」
などという意見も聞かれる。だが他のどんな職業がボロい、つまりリーズナブルなのだろうか。
医者に比べれば、どの仕事も報われず、理解されず、理不尽だ。
ところで、今年も多くの受験生が医学科に挑戦した。
一人一人、例外なくその努力は並大抵のものではなかっただろう。センター試験の合格水準をざっと見ても、国立大学では他の学部学科に比べて医学部医学科だけが突出したレベルの高さだ。そんな医学科に挑戦する意欲だけでも十分に称賛に値する。
中には何年も何年も挑戦し、ついに栄冠を勝ち取る猛者もいる。彼の手にした合格通知は他の誰のものより価値のある金字塔だ。
彼は身に備えた不屈の闘志を持ってして、他の追従を許さない、充実した人生を過ごすことだろう。
この時期に生まれる輝かしい勇者たちに日本の未来を託したい。
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