虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
武田が研究者にばらまいた「奨学寄附金」の額
産学それぞれの分野で日本の頂に立つ二つの組織。武田薬品工業と東京大学が共に沈黙を続けている。臨床研究が医薬品の販売促進のためのイベントだったことを満天下に知らしめた一連の不正。全国民が知っている事態にもかかわらず、武田と東大のトップはいまだに責任を取らない。
まずは前号で積み残した武田の株主・原雄次郎氏らによる株主総会の「事前質問状」から追っていくことにしよう。
「タコ配当」に励む国内製薬トップ
〈質問番号6 高配当金支払いの継続について 現在、配当性向が100%を大きく超えているにも拘わらず、今後2年間は180円配当を継続すると発表されている。その原資は利益だけでは足りず、社債発行等に依存する可能性が高いが、そうなるといわゆるタコ配当を行うことになり、武田が長年維持してきた健全な財務運営を放棄することになり、将来の企業経営に重大な問題をもたらすことが危惧される。今後も、このような資産流失を続けられる予定かについて武田薬品の意見を回答されたい〉
〈タコ配当〉なる用語には解説が必要だろう。つまり、株式会社が分配可能な額の剰余金、つまり配当するべき利益がないのに、粉飾決算などの手段を用いて見かけ上分配可能額、つまり、配当可能利益があるように見せかけるなどの行為によって、出資者である株主へ過大な剰余金の配当をすることだ。
原氏は紳士だ。決して相手を追い込んだり、脅したりはしない。だが、文面を見る限り、「現在の」武田をまともな交渉相手とは思っていない。必要とあらば、粉飾決算まがいの行為も辞さない企業。そうした認識が見え隠れするのだ。
質問番号7も掉尾を飾るにふさわしい言語道断ぶりだ。武田はこんな基本的な事実さえ株主にいまだに伝えていないのだろうか。
アクトスの米国における陪審員裁判については本誌でも何度も取り上げてきた。①は武田の然るべき部署に務める社員ならぬ身としては、何とも予想の仕様がない。だが、②への回答は明快だろう。そう、長谷川閑史その人に他ならない。
〈質問番号7 米ルイジアナ州陪審員裁判について
①2014年4月初めに、武田薬品の連結決算内容を明らかにした際、アクトスについて米ルイジアナ州連邦地裁陪審員裁判で武田に60億㌦(約6100億円)、リリーに30億㌦(約3050億円)の賠償が報じられたが、武田薬品は、本件を何時の時点で知り、また現状においてどのように対処しているのか回答されたい。
②仮に巨額の賠償金を支払うという事態になった場合には、その原因を作った者に対しての責任追及が必要だと考えるが、武田薬品としては、誰が責任者であると考えているのか回答されたい〉 長谷川が愛してやまない米国流経営の例を引くまでもなく、企業経営者にとって株主は何にもまして大切な存在である。しかも、古参の株主からこれほどまで基本的かつ重要な指摘を受けるとは何事か。
武田はすでに純然たる日系企業ではない。本誌では何度も指摘してきたし、質問状も疑義を呈している通りだ。だが、外資系企業に近づいたかといえば、どうもそうではないらしい。
国内では繰り上げ当選の結果、かろうじて首位にしがみついてはいる。だが、国際市場においては所せんB級企業に他ならない。
1社で年間1300万円超の奨学寄附金
本誌は非常に興味深い資料を入手した。武田をはじめ、武田バイオ、第一三共、ファイザー、アステラスの製薬企業5社から医療機関と研究者に支払われた2013年度分の奨学寄附金の額が記載されたリストである。
これによれば、武田から研究者として最も高額の奨学寄付金を受け取っているのが河盛隆造・順天堂大学医学部特任教授。その額は1384万3349円に上る。僅差で追うのが神田忠仁・理化学研究所新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター業務展開チームチームリーダーだ(1382万1445円)。両者には月額100万円超の金が支払われている。
以下、次のような顔ぶれがリストに並ぶ。
▽加来浩平・川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部医療福祉経営学科特任教授(863万1223円)
▽苅尾七臣・自治医科大学内科学講座循環器内科部門主任教授(823万803円)
▽堀内正嗣・愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻システムバイオロジー部門分子ネットワーク解析学講座分子心血管生物・薬理学分野教授(712万7711円)
▽蘆田潔・大阪府済生会中津病院消化器内科部長(687万3026円)
▽大西勝也・大西内科ハートクリニック院長(682万5000円)
▽阿部康二・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学教授(601万4014円)
▽伊藤浩・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科生体制御学講座(循環器内科学)教授(595万8330円)
▽龍野一郎・東邦大学医療センター佐倉病院副院長(教育担当)・栄養部長(575万7851円)
▽横井宏佳・高木病院循環器センター長(546万8272円)
▽大石充・鹿児島大学病院病院長補佐(診療・研究担当)(534万5790円)
▽有馬秀二・近畿大学医学部腎臓内科主任教授(512万3050円)
▽光山勝慶・熊本大学大学院生命科学研究部生体機能薬理学分野総合医薬科学部門薬物治療設計学講座教授(512万3042円)
▽水谷登・とみやす整形外科クリニック循環器内科(484万4597円)
▽平光伸也・平光ハートクリニック院長(479万8500円)
▽佐田政隆・徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部循環器内科学分野教授(451万511円)
▽猿田享男・慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科名誉教授(434万3455円)
▽奥川学・関西医科大学医学部精神神経科学講座准教授(413万7660円)
研究者によっては複数の企業から受け取っている例もある。甚だしい場合は4社からという者もいる。市民感覚と医療界・医学界・製薬業界のそれ。乖離はかくも激しいようだ。
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