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未来の会

イオン

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会社の不沈懸けたダイエー買収時に 社長側近がインサイダー取引

売り上げが6兆円に達し、日本一の小売業になったイオンには、どことなくいかがわしさが付きまとう。その一例が、元執行役の平林秀博氏が金融庁から197万円の課徴金納付命令を受けたダイエー株をめぐるインサイダー取引だ。イオンがダイエーの筆頭株主である丸紅から株式譲渡を受けてダイエーを子会社化する決定の公表直前にダイエー株を購入、発表後に売り抜けて110万円の利益を得て、平林氏と知人3人が証券取引等監視委員会(SESC)に摘発された。平林氏はイオンの前身であるジャスコの経営企画室長、イオン社長室長、グループの稼ぎ頭であるイオンモール専務取締役管理本部長と日の当たる部署を歴任した後、イオン社長室責任者に就いた経歴の持ち主。岡田元也社長がコンプライアンス(法令順守)の徹底を唱えても、側近がインサイダー取引事件を起こしていたのでは徹底宣言もうつろに聞える。

 この事件が注目されたのは、インサイダー取引の対象がダイエーだからだ。日本一だったダイエーはイオンが喉から手が出るほど欲しかったスーパーで、イオンの子会社になったことでイオングループの売り上げは一挙に6兆円を突破、セブン&アイ・ホールディングス(HD)を抜いて日本一になれた。ダイエーは産業再生機構の支援を受けた後、丸紅が29%の株を持つ筆頭株主に納まり再建が始まった。イオンは20%の第2位株主にはなったが、経営はもっぱら丸紅が行い、イオンは指をくわえて見ているだけだった。しかし、再建は順調ではなく、丸紅社内では自ら小売業に乗り出したい流通部門と、早く売ってしまいたい財務部門が対立していたともいわれているが、イオンは丸紅が手放すまでじっと待っていた。その機会がやっと訪れた時、裏では中枢の社員がインサイダー取引を行っていたのだ。

売上高日本一でも財務事情は綱渡り

 ダイエーの子会社化はイオンにとっては念願であると同時に、イオンの浮沈を懸けるもの。過去、イオンは合併に次ぐ合併で巨大化した。かつてジャスコといっていた時代、創業者の岡田卓也名誉会長はスーパー業界の会合で他社の社長に端から合併を持ち掛けたほどだ。大手スーパーに成長しても、中国進出に失敗し倒産したヤオハンを傘下に入れ、会社更生法を申請して倒産したマイカルを手中にし、フランスの大手スーパー、カルフールの撤退では同社が持つ国内店舗を買収した。最近でも、森ビルに要請されてパルコの大株主になって買収を狙ったが、森ビルが保有株を大丸に売却。イオンははしごを外された上、親しい大丸の買収だったことに激怒したが、大丸から代わりにスーパーのピーコックを譲ってもらって和解。そして中堅食品スーパー、マルエツを傘下に持つダイエーという熟柿が落ちてくるのを待っていたのだ。そのダイエーを入手し、イオンは「売り上げ10兆円」という目標に一歩近づいた。だが、懐具合は決して楽ではない。ダイエーの子会社化に際し、規模拡大だけが注目されたが、イオンの財務事情は綱渡りの経営が続いていた。

 中核事業であるGMSと呼ぶ総合スーパーも食品スーパーのジャスコも長引く景気低迷で利益が出ない。セブン&アイHDのイトーヨーカドーも同じだが、セブン‐イレブンとセブン銀行が利益を稼ぎ出していた。一方、イオンのコンビニ、ミニストップは小規模でイオンを支える利益を生むほどではない。メーンバンクのみずほフィナンシャルグループの反対を説得して設立したイオン銀行は、みずほ銀行から法人取引を禁じられたため低迷し、3年で黒字に転換できそうもなかった。認可責任を問われるのを恐れた金融庁が破綻した振興銀行の不良債権を処理した上でイオンに譲渡、同時に法人取引ができるようになったことで黒字にさせた状態だ。唯一、イオングループを支えていたのがイオンモールだったが、進出先のシャッター通り反対の声に押されてモールの進出を規制された上、リーマンショックで埼玉県越谷市にオープンしたイオン・レイクタウンの証券化が遅れ、財務はアップアップの状態だった。

 その苦労を乗り越えてのダイエー子会社化だ。関係者は「丸紅から24%の株式を約400億円で買い取る子会社化は財政的に苦しかった。資金捻出に600億円の劣後債を発行して賄った。赤字続きのダイエーを黒字に転換できなければイオン自体がおかしくなる」と話す。浮沈を懸けたダイエー買収の時に、岡田社長の側近中の側近がインサイダー取引を行ったことは社内に腐敗がある証左だ。

寺島薬局買収時にもインサイダー疑惑

 しかも、イオン幹部のインサイダー取引騒ぎはこれだけではない。イオンが子会社化したウエルシアHD傘下のウエルシア関東が旧寺島薬局(現ウエルシア介護サービス)を買収した際、イオン幹部が寺島薬局オーナーと一緒にTOB(株式公開買い付け)発表前に寺島薬局株を購入していた疑惑が報道されたことがある。元寺島薬局役員が極秘資料をそろえてSESCに訴えていた。だが、SESCは「動かぬ証拠」を手にしながら動かなかった。兜町では「ダイエー株のインサイダー取引は執行役個人の犯罪だからSESCが摘発して課徴金を科した。しかし、旧寺島薬局株のインサイダー取引・株価操縦疑惑は元寺島薬局オーナーやウエルシア関東の元社長、イオンのドラッグストア関係者たちが絡んだ組織的なものだから面倒だと目をつむったとうわさされている」(ある証券アナリスト)という。

 SESCに摘発された平林氏は岡田社長の側近だが、ウエルシアHDの取締役も兼任していた。寺島薬局のTOB時に関係者総出でインサイダーまがいの取引をしているのを見て朱に染まったのか、SESCが摘発しないのを目の当たりにしてダイエー株のインサイダー取引に走ったのか。ともかく、イオンでは2000年に重要情報の適正管理、関連法令の遵守をうたい、03年には全従業員が遵守すべき行動規範を制定したが、法令も行動規範も「ただの看板」と無視していたかのようだ。

 ウエルシアHDもイオンと同様、合併と買収で成長してきたドラッグストアだ。買収を積極的に進めたのが、3月に亡くなった鈴木孝之名誉会長だった。イオンの岡田卓也名誉会長が「ドラッグストアは緩やかな連合体でよい」という方針でつくった「イオン・ウエルシア・ストアーズ」(現ハピコム)に加盟し、マツキヨグループと対立した高田薬局と合併、さらに日経新聞や経済産業省が「寺島モデル」と称賛した介護事業を併設する寺島薬局を買収して規模を拡大。また、調剤に進出し、TUTAYA系のTポイント付与を武器に今や、1カ月に40万枚近い処方箋を集めて売り上げを伸ばしている。

 イオン系といっても、ハピコム内の各ドラッグストアにまとまりがあるわけではない。かつてスギ薬局が「もう学ぶことがなくなった」と脱退したのに続き、CFSも脱退して調剤大手のアインファーマシーズとの統合を目指したことがある。しかし、CFSにイオンが激怒し、株式の奪い合いを演じた末、統合を阻止。以来、イオンはドラッグストアの子会社化にかじを切った。中核事業のスーパーが低迷を続けているだけに、成長を続けるドラッグストアを子会社化して売り上げ増、利益増を図っている。

 だが、ウエルシアHDを率いた故鈴木会長は子会社化に終始反対し、イオンは29%の株式しか保有できなかった。鈴木氏が亡くなり、御しやすくなったことで「業務・資本提携の深化」をうたい文句に子会社化を実現。スーパー部門で実践してきた合併を地で行くような戦略だ。ついでにいえば、旧寺島薬局買収後、インサイダー取引・株価操縦疑惑の「口封じ」に解任したといわれる役員と監査役から提訴された損害賠償請求訴訟が今も続いている。通常、こうした裁判は「経営に影響を与える可能性がある事項」として公表されるが、どこにも記載されていない。イオンの法令遵守、行動規範に触れないのか。

ドッラグストア子会社化はもろ刃の剣

 ドラッグストアはディスカウントを武器にスーパーから客を奪ってきたビジネスだ。ある中堅スーパーの社長が「スーパーの敵はドラッグストアとコンビニだ」と発言したが、ドラッグストアとコンビニは半径500㍍の狭小商圏を対象にし、「スーパーに行くのが大変」、「少量の買い物で足りる」高齢者の増加で成長している。イオンはドラッグストア対策に「まいばすけっと」なる小型食品店を展開しており、ドラッグストア業界は脅威を感じていたが、現実にはコンビニほどの機動力もなければ、安さにも欠け、脅威に感じなくなっている。その上、イオンがドラッグストアの子会社化を進めることは、中核のスーパーの首を自分で絞めているようなものだ。

 こういうイオンを世間では「デベロッパー」という声もある。実際、イオンモールに続いてイオンタウンに代表されるような大型ショッピングセンターで成長し、ダイエーを手に入れ、ウエルシアHDを子会社化して、一層巨大化した。だが、ありの一穴のたとえもある。中枢にいた側近がインサイダー取引に走るようではイオン本体は危ういのではないか。

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