虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
14年3月期「実質減益」に向け突き進む長谷川体制
「それを手っ取り早くやるのが(企業)買収。人材獲得もできる」
国内最大手の製薬企業・武田薬品工業を率いる長谷川閑史社長は1月17日、テレビ番組で言い切った。経済同友会代表幹事も務めるこのご仁。〈それ〉とは「成長する海外市場への進出」を指す。
企業が競争力を維持する上で必要不可欠なものとの認識を披露、企業買収の効果を語ったわけだ。長谷川の米国かぶれは今に始まったことではない。だが、一連の買収は武田に何をもたらしたというのか。本誌ではすでに再三指摘している。
糖尿病治療薬が肝機能障害起こす恐れ
国内首位とはいえ、武田にとって新年の前途が洋々たるものだとは口が腐っても言えない。暮れも押し迫った12月27日、同社は2型糖尿病の治療薬「ファシグリファム(TAK‒875)」の開発を自主的に中止すると発表している。臨床第3相試験の安全性を独立して監視する三つの専門委員会と連携。全臨床試験から得られるデータを検証した結果、同薬の投与により患者の得られる利益が、潜在するリスクを上回ることはないとの結論に達したからだという。平たく言えば、ファシグリファムの投与によって一部の患者に肝機能障害を引き起こす可能性があることが判明したのだ。
この発表に株式市場は敏感に反応した。完全に売り材料として作用する。一部には有望な大型新薬としての期待もあったため、中長期的な業績への影響を懸念する失望売りが広がった。
武田株は一時8・2%安の4680円付け、昨年5月10日以来の日中下落率を記録。東京証券取引所第1部上場銘柄で最大の下落率となった。長谷川でなくても、社の将来を気に病みたくなる。
「ファシグリファムショック」からおよそ1カ月前。武田は長谷川の後任に、英製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)から外国人社長を招請するとの発表を行った。武田にとっては初の外国人社長の起用だ。新社長への就任が予定されている人物はクリストフ・ウェバー。GSKグループのワクチン社の社長などを務めた。
武田はまずウェバーを今年4月までに武田に入社させる見込みだといわれる。6月の定時株主総会などでの承認を経て、武田薬品の社長兼最高執行責任者(COO)に就任する予定。長谷川は会長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。大方の観測によると、「長谷川院政」が敷かれていくようだ。
武田の海外売上高はすでに5割を超えている。執行役員に当たるコーポレートオフィサーも11人中7人が外国人だ。「グローバル化」の進展、人材の「国際化」といえば聞こえはいいが、実態はそんなきれいごとで済まない。長谷川が同友会幹事の片手間で行ってきた野放図な経営の結果、社内の要所は買収で得た人材に押さえられてしまった。武田には決して一流とはいえない買収企業社員に伍するだけのタマがいなかったのだ。人材払底はすでに極まっている。社長兼CEO就任から11年。長谷川の責任は誰が問うのだろうか。
かつての「超優良企業」に見る影なし
武田は近年、医薬品業界の中でもパイプラインの確保に最も腐心してきた企業として知られる。今や見る影もないが、武田はそもそも絶頂期には4つのブロックバスターを抱えていた。超優良企業だったのだ。言うまでもないが、ブロックバスターとは年間売上高が1000億円を超える大型医薬品。武田は前立腺がん治療薬「リュープリン」、潰瘍治療薬「タケプロン」、高血圧治療薬「ブロプレス」、糖尿病治療薬「アクトス」というヒット製品による多額の利益を計上していた。
だが、いかに爆発的に売れた薬であっても、いずれ特許切れを迎える日は来る。さすがの長谷川にもそれくらいは理解できていたようだ。幸い時間の猶予はあった。10年ほどの間に新薬候補を見いだし、パイプラインを拡充すればよかった。
だが、武田の新薬開発は予想外の難航を見せる。自社の研究所から良質の新薬候補がなかなか現れなかったからだ。人材不足はこの時点ですでに露呈していた。1990年代から2000年代にかけて、世界の主要製薬企業は免疫の抗体を利用した抗体医薬の開発・発売に注力。だが、武田はこのトレンドに完全に乗り遅れてしまう。国内製薬では中外製薬がいち早く抗体医薬に注目。関節リウマチ治療薬「アクテムラ」の開発に成功している。右往左往する武田とはまさに好対照だった。
自社開発ができないのなら企業買収だ。冒頭の長谷川の発言を思い出していただきたい。買収は打つ手のない経営者にとって最後の手段だった。
武田は機会を捉えてさまざまな企業を買収していく。08年には88億円をつぎ込み、米バイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズを株式公開買い付けにより買収。同じく08年には米バイオ医薬品大手・アムジェンの日本法人も買った。11年9月には、スイスの非上場製薬会社・ナイコメッドを国内製薬として過去最大の1兆円で買収。
「金にものをいわせた企業買収で新薬候補はそろったかに見えます。少なくとも、数に関する限りはそうでしょう。だが、それらの大半は小粒。特許切れした大型製品の減収を補い切れるものではありません」(国内バイオベンチャー経営者)
ファシグリファムの問題もこうした流れの中に位置付けられる。昨年5月に武田が発表した13年3月期の決算については、すでに何度も触れた。本業のもうけを示す連結営業利益は従来の予想を大きく下回る1225億円にとどまった。前期比54%減。3期連続の減益である。
14年3月期の連結営業利益は前の期より14%増の1400億円となる見通し。だが、12年5月に公表した営業利益2250億円の目標を大幅に下方修正している。2%の増収を見込んでいるものの、急激な円安で800億円の増収要因があり、これを除くと実質減収となるのは明らかだ。アクトスの売り上げは前期比64%減の440億円。ブロプレスは同13%減。負の連鎖は止まらない。
買収した外資や海外市場頼み。しかも満足な成果は挙げられない。この程度の経営者を安倍晋三政権は「成長戦略」を議論する「産業競争力会議」の「有識者委員」に迎えている。「アベノミクス」がどういう筋のものか。お里が知れる。
それでもトップのいすにしがみつく長谷川。「王様」は一昔以上前から裸のままだ。
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