得意先の調剤薬局の値下げ要求が 業績に水を差す皮肉
大手医薬品卸、アルフレッサ ホールディングス(以下、アレフレッサ)の業績が好調だ。2月末に発表された13年3月期の第3四半期決算は、累計の売り上げが対前年比2%増の1兆8089億円。前年悪かった営業利益(累計)は245%増の206億円、経常利益も108%増の274億円と大幅増だった。同社は「流通改善と販売管理費の低減に取り組んだ成果」と言うが、売り上げ2%増は医療用医薬品の伸長率2・3%を下回っている。値下げ圧力のないワクチン接種とインフルエンザ薬が急増したことが、売り上げ増、営業利益増につながった。しかも、同社だけが良かったわけでもない。一般医薬品を含めてトップのメディパルホールディングスも、スズケンや東邦薬品、バイタルケーエスケー・ホールディングス、ほくやく・竹山ホールディングスも増収増益だ。
それどころか、医療用医薬品では2位に甘んじているメディパルは、医療用医薬品トップの座を奪おうと狙っているし、スズケンも巻き返しを図っている。医療用医薬品トップのアルフレッサの地位は決して安泰ではない。
劣勢を調剤薬局で補う作戦が奏功
同社が医療用医薬品でトップになったのは、営業の実力があったからではない。同社の中心である旧福神の地盤である首都圏は最大の激戦市場だった。スズケン、クラヤ薬品(現メディパル)、東邦薬品、オオモリ薬品(現スズケン)などがシェア争いを展開。中でもスズケン、クラヤ薬品が強く、今でも大手病院ではかつての王者だったスズケンやメディパルの方が知名度も高くアルフレッサを上回る。それでも同社が医療用医薬品でトップに立てたのは経営戦略に先見の明があったからだ。医薬分業が始まって間もなくは誰も今日のような医薬分業が進むとは思っていなかった。医薬品卸は各社とも、医療機関が薬価差益を享受できる院内処方を手放すとは想像しなかったのだ。
だが、同社の福神邦雄・名誉会長は医薬分業時代が来ると信じ、調剤薬局への営業に力を入れた。この営業姿勢が薬局店主、薬剤師の信頼をつかみ、医薬分業が進むにつれ、同社の医薬品販売は伸長、大手医療機関での劣勢を補い、医療用医薬品販売トップに躍り出たのだ。
もちろん、調剤薬局は大手チェーンが誕生したといっても、一店一店は小規模だし、数も多い。医薬品卸にとって配送は面倒この上もない。MS(医薬品卸販売担当者)をこまめに回らせたら経費がかかり過ぎる。卸が扱う医薬品は各社、同じものだし、より多く売れるかどうかは医療機関や薬局部門に対する人的つながりや価格、サービスの違いでしか差をつけられない。当然、卸が利益を増やすためには人件費を含めた配送費の節減をするしかない。全国の調剤薬局に医療機関と同様の頻度でMS(医薬品卸販売担当者)を回らせたら膨大な経費増になってしまう。
だが、同社は販売管理費を低く抑える「ローコスト経営」を考案した。「セールスアシスタント(SA)」制度だ。SAは専らパートの女性の配送専門員である。パートだから人件費は安く済み、多頻度配送を可能にした。「MR(医薬情報担当者)はもちろん、MSも来ない」と不満を持っていた調剤薬局はSAを大歓迎した。調剤薬局店主が価格や医療情報をうるさく言っても、女性SAから「MSに報告しておきますね」などいわれると怒ることもできない。多くの卸が「分業率30%を超えたら調剤薬局への売り込みも必要になる」と言っている間に、同社はこのローコスト手法で調剤薬局の心をつかみ、シェアを握った。
さらに、「ローコスト経営」を実現したことで病院への売り込みでも値下げ要求に耐えられる体質づくりにも成功し、医療機関への販売も伸ばすことができた。
同社は大株主に第一三共とエーザイが並んでいるように、どちらかといえば、第一三共系だ。2009年に武田薬品工業色の強いメディパルとの合併が破談になったのも、合併会社が武田系になることを恐れた製薬メーカーや同業他社が公正取引委員会の水面下の事前聞き取りに反対の意思を伝えたことが大きいといわれる。だが、アルフレッサは武田薬品との取引も多く、かつ医療用医薬品トップになったことがプラスの効果をもたらしている。というのも、武田薬品は「国際医薬品4品目」と称していたブロックバスターが次々に特許切れを迎え、配合剤を含めてより多く売らなければならなくなり、系列卸だけを優遇するわけにはいかなくなっている。いや、むしろ、医療用医薬品トップのアルフレッサに大いに売ってもらう必要が出てきている。こうした事情は製薬メーカー各社の医薬品を同等に扱うことができることになり、医療機関への販売に優位に働く。
しかし、医療用医薬品トップだからといって安住できるわけではない。昨年の売り上げは丹平中田を合併したことで650億円の売り上げをかさ上げしたものだし、前述した今13年3月期第3四半期の累計売り上げ1兆8089億円も山口県を中心に中国地方と九州北部を地盤にする常盤薬品を合併したことによる効果が加わっている。
セルフメディケーション事業が足を引っ張る
13年3月期の通期では2兆4030億円の売り上げを見込み、医薬品の伸びを上回る3%増を予想している。この予想は実現できるだろうが、それでも卸トップには届かない。それどころか、売り上げ、営業利益、経常利益で最大のメディパルの追い上げがある。医療用医薬品の売り上げいかんは医薬品卸への評価そのもの。卸トップのメディパルにとって2位に甘んじるわけにはいかない。
MRを育成し、MR資格保持者は800人を超えた。中堅製薬メーカーをしのぐ人数である。このMR部隊がメーカーの販促活動支援に加わることで新たなフィーを獲得するとともに、MR資格を持つMSを「アシスト・リプレゼンタティブ(AR)」と称して医療用医薬品販売に投入している。スズケンも販売に力を入れ起死回生を狙っているし、4位の東邦薬品もアルフレッサ、メディパルの2強を目標に食い込みを図っている。
一般用医薬品ではメディパルが圧倒的に強い。アルフレッサの「セルフメディケーション卸売事業」は一般医薬品市場がマイナスだったとはいえ、売り上げが1545億円にすぎず、20億円の営業損失(13年3月期第3四半期累計)を出し、足を引っ張っている状態なのだ。
もっと重大なのが「流通改善」の問題だ。流通改善とは、聞こえはいいが、中身は総価取引をやめ、単品単価取引にすることだ。厚生労働省が音頭を取り、製薬メーカー、医薬品卸が積極的に進めている取引態様である。卸にとっては総価取引の妥結遅延が尾を引き、結局、病院側の値下げ要求に屈することになり営業利益率が低くなることを防ぎたいし、製薬メーカーは仕切値の引き下げや卸への支援をしたくない。同社の鹿目広行副社長は「卸にとって営業利益率1%確保が最低ライン。それを実現するために流通改善が必要だ。医療機関、調剤薬局に懇切丁寧にコストを説明し、信頼を得られる価格設定を示すことで流通改善に本腰を入れて取り組みたい」と語っている。
だが、調剤報酬に加えて薬価差でも大いに潤っている調剤薬局と違い、多くの病院は総価取引で薬価差を生み出し、夜間診療の人件費等を捻出しているだけに流通改善を受け入れられないだろう。
前門の調剤薬局、後門のメディパル
流通改善ができるかどうかは同社に大きな影響を与える。調剤薬局は新薬に対しても値下げを要求するからだ。ある医薬品卸の幹部は「新薬創出加算の試行で新薬は値下げできないことを説明すると、大概の医療機関は理解してくれ、代わりに長期収載品、ジェネリックの値引きを大きくするように要求する。これはこれで理屈が通っている。ところが理解してくれないのが調剤薬局。説明しても新薬創出加算なぞ関係ない、という態度で値引きを要求する」とこぼす。調剤薬局に強い同社にとっては、調剤薬局側の強引な値下げ要求が業績に水を差す。かくて同社の後門にはメディパルの追撃が始まっているし、前門には調剤薬局の無理強いが横たわる。
むろん、アルフレッサは座視しているわけではない。抗体医薬品やバイオ医薬品時代に備えて、北海道はモロオ、九州は富田薬品と業務提携し、本州と四国はグループ各社が担当して輸送時の一定温度管理できる「高度温度管理物流網」を作り上げたし、医療機関と調剤薬局向けサービスとして09年に始めたネットサイト「alf-web」も順調に伸び会員数は2万7000に達した。同サイトは、添付文書情報や相互作用情報の提供に加え、オリジナル情報誌の発信や税務会計トピックス、医療機関向けニュース、医薬品を解説する動画コンテンツの他に、オンライン発注機能も併せ持っている。アルフレッサによると「MRの接待規制を受け、腰が引けているMR、MSに代わって情報提供する」ものだが、実は医薬品の発注にも大いに役立っている。引きこもりが多いなどとやゆされる薬剤師が多いせいなのか、オンライン発注はすでに1万件を突破。ネット時代にふさわしい配送業務の効率化に役立っているという。 いずれも斬新な取り組みだが、同社はあらゆる手を打ち続けないと医療用医薬品卸トップの座を守り切れない。
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