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中長期型支援が促進するポスト3・11地域医療の変容 ④

 人材がなだれを打ち始めた。福島県浜通り地区の医療支援のここ1カ月間の状況である。
 11月から南相馬市立総合病院の支援に亀田総合病院が立ち上がったことは前号でお伝えした。その後、某私立大学神経内科教授が退職して赴任したり、関東地区某病院精神科部長も退職後浜通りに行ったりする案が持ち上がってきている。
県が引いて市が立ちふさがる
 福島県のこの間の不作為については本誌でも現場寄りの視点で詳細にお伝えしてきた。一説には相当こたえているとも聞く。さすがにこの時期、ようやく医師が集まり始めた状況によもや水を差すようなことはあるまい。だが、ここに来て新たな阻害要因が急速に目立ち始めた。
 南相馬市役所内の問題。総務省から出向しているキャリア官僚、副市長・村田崇氏こそがその人である。
 10月、市立総合病院がデータを発表する際にこの御仁が騒ぎ始めた。いわく「市長と市立病院が勝手にやっている」「私たちは蚊帳の外だ」。共同歩調を取れば、「病院が暴走している」とのたまう。何をどうすればいいというのだろうか。
 東京大学大学院理学系研究科の早野龍五教授といえば、ご存じの方もいるかもしれない。東日本大震災発生直後からツイッターを通じて、御用でもデマでもない情報発信を続けてきた。その早野氏が震災後、病院給食について無料で放射線量を測ろうと申し入れた。地域にとってはありがたい話。だが、この申し出は市長には届かず、途中でうやむやになってしまっていた。
 その点を現地で支援に当たる医師が桜井勝延市長・村田氏あてのメールで指摘したところ、すぐに返信。文面がふるっているので引いてみる。
  〈特別職に対して原因を調べろという趣旨のメールになっていますから、私に対してはともかく、市長に対しては失礼極まりない行為〉
  〈これでは単なる一職員による感情任せの「ちくり」としてしか扱うことが出来ません〉
  〈この際申し上げますが、WBC(ホールボディーカウンター、編集部注)や尿検査の問題など、市民を巻き込むような話題において重大な守秘義務違反を繰り返されていることは、極めて遺憾です〉
  〈県や県立医大に多大なご迷惑をおかけし、これ対応を(ママ)総合病院ではなく市の側で負わされている現状を考えると、市職員としても、感情的にどうしても総合病院を敬遠せざるを得なくなる〉
  中央省庁からの出向が抱える宿痾の一端が読み取れる。突っ込みどころ満載ではあるが、あえて一点のみに絞って考えてみることにしたい。
  〈県や県立医大に多大なご迷惑をおかけ〉することにずいぶん拘泥しているようだが、それはいかがか。被災地における公僕の役割を村田氏はどのように心得ているのだろう。確認しておきたい。県や県立医大にはどれだけ迷惑が掛かろうとさしたる問題ではない。副市長も含む市職員が第一に考えるべきは「住民の迷惑」である。
 県がようやく一歩引いたと思ったら、今度は市だった。村田氏の存在が今や復旧・復興のブレーキとなっている。市立総合病院で活動する数少ない医師たちについて「全然分からない」を連発する。専門職である医療者の仕事をゼネラリストの典型ともいえる官僚に理解できるのか。そんな疑問はさておき、金澤幸夫院長や及川友好副院長は市庁舎に「ご説明」のために日参している。
  メジャーメディアでもたびたび取り上げられる地域のヒーローが役所に呼びつけられる。そんな光景を住民はどんな思いで眺めているのか。
  同じ浜通りにあるほかの自治体では市職員が病院へと説明に出向く様子が頻繁に目に飛び込んでくる。この差は何なのだろうか。
  市職員の役割は現場のサポート。市町村の内情は個別に異なる。そんなことには思いをいたすことなく、出向者はどうやら殿様気分で仕事をしているらしい。
  南相馬市は合併を経験している。それでなくても、複雑な事情を抱えているのだ。確かにメディア対応に不慣れであった点も否めない。
  11月、WBCのデータを4000件公表した。およそ半数の子供が被曝。だが、放射線量は一様に低かった。原子力に批判的な今中哲二・京都大学原子炉研究所助教でさえ「こ
れだけ低ければ大丈夫」と認めたほどだった。
地域の安心に貢献するWBC
 安心。被災地が求めているものはこれに尽きる。地域の病院でWBCによる検査を受けた住民は一様にほっとしていた。
  「南相馬市での結果を周辺自治体で発表すると、皆さん安堵しているのがよく分かります。政府がお手盛りのデータで『安全』を強調したり、旧ソ連・チェルノブイリ原子力発電所事故のデータをかいつまんで伝えたりするよりもよほど効果的。実際にやることが大事なんです」(現地で支援に当たる東京都内勤務医)
 南相馬市立総合病院では1日100人のペースで処理しているが、来年3月までWBCの予約は埋まっている。説得力に満ちた数字だ。
 2011年度第2次補正予算で国は800億円を福島県に付けた。WBCは1台4000万円。ランニングコストも極めて低い。
  「これはすべての病院に入れた方がいい。県が調査として受け持つようなレベルではない」(同前)
 南相馬市立総合病院に問題があるとすれば、地域住民を優先しなければならないことだろう。今や福島県中通り地区や茨城県、栃木県など広範な地域でWBCへのニーズが高まってきている。ならば、答えは簡単だ。民間医療機関の出番である。
  「1人当たり5000円程度の実費負担を求めてもいいでしょう。ただ、国民はすでに800億円を公費から支出している。福島県にはそれだけの予算がある。今のところ、実施しているのはWBCとアンケート調査のみです」(国立大学教授)
 アンケート調査に関しては「賠償」との関連で問題が浮上している。「できるだけ外にいたことにしよう」というバイアスが傾向としてみられ始めている。すでに「科学的調査」の域を外れているといっていい。
  「WBCはその点、科学的。南相馬市はなぜ2台目、3台目を買わないのでしょうか」(同前)
 桜井氏は「やるべし」の立場。市民も支持している。買わない理由は実ははっきりしている。市役所がついてこれていないのだ。
 村田氏は「亀田総合病院さんはいつまでいてくれるか分からない。私たちはずっといる」と言う。だが、いつまでか分からないのは官僚のローテーション人事だ。民間である亀田はいったん名前を出して支援を表明した以上、ブランドがかかってくる。この違いも氏には分かるまい。


2011年12月21日 16:22 | 医療政策・病院・行政

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