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中長期型支援が促進するポスト3・11地域医療の変容 ③

 鍵は「雇用」だった。
 亀田総合病院(千葉県鴨川市、以下、KMC))が南相馬市立総合病院(福島県)の支援に立ち上がる。亀田隆明理事長の決断だ。同病院幹部は「医師を3人呼ぶのも30人呼ぶのも同じ」と発言。このロジックに説得力を持たせられる医療機関はそれほど多くない。鴨川市で450人の医師を抱える事実はやはり重い。
医師1人で地域に10人の雇用
 勤務医が1人いれば、1億円の収入につながる。年間の給与を仮に1000万円として差し引けば、9000万円残る。人件費率を5割とすれば、4500万円分の雇用を生める。医師1人が来れば、10人分の働き口を確保することにつながる。
 被災地ばかりでなく、東北や北陸ではこのところ「町おこし」が盛んだ。医師を1人養成するだけで地域再生の目的に容易に近づける。
 もちろん、過疎地や「限界集落」の問題もある。だが、医療ニーズは高いものの、財政を圧迫するほどの水準ではない。鴨川市を見れば分かるように、医療は究極の地域おこしにつながる可能性を秘めている。
 超高齢社会を迎えた国内で最も不足しているのは介護施設や特別養護老人ホーム。仮設住宅はおおむね数千人の規模だ。被災地の高齢者には不満はあるものの、喜んでもいる。なぜか。居場所と仲間がいるからだ。
 国はこれまで医療費抑制の観点から「病院から在宅」に誘導してきた。だが、問題は家か病院かではない。高齢者にとって重要なのは居場所と仲間のあるなしだ。政策課題の設定が間違っていたということだ。
 今後、仮設住宅や特別養護住宅を復興の過程で考える場合、居酒屋やコンビニ、医療機関を併設する必要が出てくる。本誌既報のKMCがいう「地域コミュニティの再生」の具体像がまさにそこにある。
 最近、被災地の医療体制をめぐっては、「ネットワーク化」「集約化」「IT化」といった単語で満ちている。これらには共通するものがある。いずれも縮みの思考であり、現状維持を正当化する論理にすぎない。
 国民は平等だし、国民皆保険制度は守らなければならない。だが、南相馬市の医療の現状を見て、そう言い募ることに意義はあるのか。
 常勤の小児科医が一人もいない中、財政のつじつま合わせにかまけている場合ではない。さすがに皆保険の理念からも外れている。
 KMCは2010年度診療報酬改定を雇用増につなげた。医療者をはじめ、経営企画室などの事務方にもプロフェッショナルを引き寄せた。
 亀田信介KMC院長や小松秀樹副院長らによる現地視察の結果、作業療法士や理学療法士の不足が明らかだった。大量に送り込むことを決定。当初は出向扱いにすることになった。受け入れ側の南相馬市も異存はない。短期的には復旧・復興補助金による投資資金がある。長期的に費用対効果が高い施策でもある。
 被災地で不足しているのは医師数。「医師さえ集まれば何とかなる。他職種はいずれついてくる」。KMCの動きの根底にはそんな考えが見て取れる。一部の被災県は「医師が集まると、看護師に負担が跳ねる」といった「できない理由」を挙げてくる。最終的には箱ものに落ち着き、ゼネコンを相手に「みんなが納得する」線で落ち着くわけだ。現状を追認する仕組みが被災者の生活をどう変えるというのだろうか。
 国の補正予算にしても、いまだに「土建屋」の「箱もの」発想から抜け出せていない。あれほどソフトパワーの重要性が指摘されたにもかかわらず、である。「放射線医学県民健康管理センター」や「バイオバンク」では従来型の限界が見える。
 事は投資である。政権交代から2年以上が経過し、「コンクリートから人へ」の具体例が非常に分かりやすい形で提示されようとしている。医療に関していえば、やはり補助金は作り付けが悪い。診療報酬増が本来取るべき道だろう。その上で人材に回すことを考えればいい。KMCはその好例ではないだろうか。
 医師数増に話を戻す。KMCの支援は南相馬市による医師大幅増員策に呼応するものだ。少なくとも医療に関する前向きな投資は、東日本大震災発生以降ほぼ初めてといえる。
 東北地区の医師不足は九州や大阪、東京など、他地域のそれとは様相が異なる。費用対効果はべらぼうに高くなる。ましてやKMCの取り組みは事実上ノーリスク。なぜか。国としてはメンツをかけてでも実行しなければならない政策課題だからだ。南相馬市を無医自治体のままにしておくわけにはいかないだろう。
 これを機に被災地のモードが変わっていくかもしれない。いったん変われば、福島県庁や東北大学といった主要プレーヤーが分相応の役割を担うことになるだろう。
箱ものか呼び水かの経営判断
 繰り返すが、医療は雇用を通じて地域に貢献できる。南相馬市原町区(人口約4万人)だけで約1000人の医療者や医療系の事務職員がいる。外注や納入の業者や委託職員まで含めれば、さらに増える。全産業の1~2割を占めている。
 つまるところ、ニーズがあるのだ。もちろん、財源の問題はある。いずれかの段階で高齢者の資産が回る仕組みにしなければならない。だが、ニーズがあり、町おこしになるのであれば、話は変わってくる。目立った大手企業が多く進出しているわけでもない。第1次産業も心許ない。水産業は放射線による風評被害から抜け出せていない。農業にしても、輸出は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に向けてハンディキャップを負っている状態だ。
 その点、医療は間違いなく地域から求められている。残念ながら、3次補正の審議が終わった今、中央政府の動きは鈍い。小宮山洋子厚労相の周辺には「投資の機会」について進言できるだけの知恵者が見当たらない。決断できないのも道理か。
 いくら資金があっても、箱ものに使うか、医師増につながる呼び水にするかはまさに経営判断の問題。医師は過疎地域だから集まらないわけではない。特性として大規模な医療機関には加速度的に集まる。「へき地だから増えない」はできない言い訳の一つにほかならない。
 津波や放射線が襲った地域。大変に不幸なことではあるが、反面、既存のしがらみは消えた。「更地」の調整コストは下がっている。進出の機会ととらえる経営者が出てくるのは当然のことではないだろうか。
 立谷秀清・相馬市長はすでに医療機関進出に関して「公設民営」を視野に入れている。経営責任と資金は地元が持つ。運営ノウハウと人員を外部の法人が持ち込む。11月1日以降、復興モデルは現実化するのか。


2011年11月 1日 09:30 | 医療・医療政策・病院・行政

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