「服薬指導料」2100億円不正請求の疑念
ヤフーの掲示板に興味深い投稿が載っている。小誌がインサイダーや株価操作の疑惑などを報じてきたウエルシア関東(イオンのドラッグストアグループのグローウェルホールディングスの子会社)のドラッグストア「ウエルシア」の調剤併設店で、処方薬を買った人の体験談である。「実際に体験した節約術題した話を以下に紹介する。
「ウエルシアで病院指定の薬を買うと、保険調剤明細書、領収書、内服薬(用法が書かれている)、無題(薬の名前や薬の写真や薬の働きなどが書かれている)の4枚の紙が渡されます。これらは、購入に伴う書類だから、無料、と思っていませんか。わたしは、3回目(月に一度購入)まで、そう思っていました。ところが4回目で、『無題の紙は、いつも同じだから要りません』と言いました。そうしたら、支払い額が、170円も少なくなりました。つまり、無題の紙は、有料だったのです。おそらく、今でも、『有料だとは知らされずに』、渡されるままに受け取っている人が、いるのではないでしょうか」
購入者を愚弄する詐欺的な行為
この投稿は節約術を紹介するのが目的だが、図らずも服薬指導の形骸化、不正請求の実態を浮き彫りにしている。服薬指導は薬剤師法第25条に義務として定められ、薬剤師が患者に対し処方薬に関する説明を行うことだが、一方的に説明すればよいというものではない。患者の訴えを聞くことも大切で、薬剤師はコミュニケーション能力を問われる。
服薬指導には点数が付く。1983年に「投薬特別指導料」が、86年に「薬剤服用歴管理指導料」が調剤報酬に新設された。92年には投薬特別指導料が薬剤服用歴管理指導料
の加算という形に変更された。患者ごとに作成された薬歴簿に基づき、薬物アレルギーや副作用、重複投与などをチェックし、注意事項などを文書で指導した場合のみ加算される。
しかし、投稿者のケースは薬剤師が服薬指導をした形跡がうかがえない。その上、服薬指導に関する文書が無題となっている。「服薬指導説明書 170円」と明記されていな
ければ、患者は有料であることが分からず、毎回同じ文書に料金を支払うことになる。
社会の高齢化に伴い、高血圧などの生活習慣病が増えている中、同一の処方投薬が行われ、毎回、服薬指導に関する料金が発生するのは、患者にとっても国家財政にとっても無駄なことだ。服薬指導に関する文書を無題にしているのが作為であるならば、詐欺行為と言わざるを得ない。ウエルシア関東に取材を申し込んだが、担当者から「上からの指示で取材には応じられない」と拒否された。
服薬指導の形骸化や不正請求はウエルシア関東1社に限ったことではないようだ。ドラッグストア業界の関係者は驚くべき実情を打ち明ける。
「会社の方針として、服薬指導をしていなくても文書1枚を利用者に渡すことによって一律に指導料を請求しているドラッグストアチェーンや調剤薬局チェーンはほかにもある。文書はあくまでも保健所向けの査察対策の手段。不正請求といえる」
薬剤服用歴管理指導料の点数は処方せん受け付け1回につき30点(300円)。処方せんの年間総数は約7億枚なので、単純計算で毎年約2100億円が使われていることになる。医療財源の捻出に苦しんでいる中で、2100億円が不正請求されているとしたら、由々しい事態だ。
しかも、服薬指導が形骸化しているのは、処方薬だけではない。「一般用医薬品(OTC)の第1類でも、文書1枚を渡して済ましているドラッグストアチェーンがある」と別の業界関係者は証言する。
改正薬事法は、OTCを副作用のリスクによって第1~3類に分けている。リスクが一番高い第1類は副作用被害などの恐れがあるため、対面販売が原則。薬剤師は商品内容や
利用法を文書に基づき購入者に説明する義務がある。処方薬のように加算が付かないので不正請求はないが、違法であることは間違いない。
また、第1類と第2類は、副作用被害や偽薬販売の恐れがあるため、ネットなどによる通信販売が禁止され、薬剤師や登録販売者が対面販売することになっている。しかし、薬剤師が購入者に薬の説明をしていないのであれば、裁判で是非が争われている通信販売規制の根拠を失うことになる。
服薬指導の形骸化に対し、厚生労働省保険局医療課は「一般的に言って、文書を渡すだけでは駄目」と言う。だが、同じ問題は90年代にもあった。96年に、門前薬局チェーン大手の日本調剤が、服薬指導をせずに投薬特別指導料の加算点数を自動的に請求していたことが発覚している。服薬指導の形骸化や不正請求は以前からある問題なのに、厚労省はいまだに有効な対策を打てないでいる。
服薬指導の形骸化、不正請求について、関係団体に問いただしたところ、日本チェーンドラッグストア協会からは「実際には行っていない業務について請求することは問題」(宗像守・事務総長)との回答があった。しかし、日本薬剤師会には「内容的に取材対応は難しい」と取材を拒否された。
ドラッグストアが調剤目指す理由
このような問題を抱えながら、ドラッグストアチェーンの多くは、全店調剤を目指している。その理由は「調剤はもうかるからだ。もうけの源泉は、薬剤服用歴管理指導料と後発医薬品調剤体制加算」(前出の業界関係者)。
厚労省は後発品を「2012年度30%以上」を目標に掲げているが、現在は約23%にとどまっている。使用を促進するための〝ニンジン〟が後発医薬品調剤体制加算だ。09年度
は約38億円が投じられた。
調剤はいかにもうかるのか。厚労省が発表した2010年度の医療費は、前年度比3.9%増の36兆6000億円。そのうち調剤は同3.6%増の6兆1000億円。全体の16.6%を占める。ここ数年、医科や歯科は1~2%の増加率なのに、調剤は最高で9%近く、最低でも3%台で増加している。
調剤報酬の増加について、事情通は次のような点を指摘する。
「薬剤服用歴管理指導料の要件である、薬の説明や患者からの相談対応、調剤内容の記録などは薬剤師の仕事上、当然のこと。別途、報酬を求めるような行為ではない。後発品調剤体制加算も、財源が厳しい中、後発品を促進するのは当然で、加算をするようなことではない。調剤報酬の見直しが必要なだけではなく、薬剤師の意識改革も必要だ」
業界では昨秋、薬剤服用歴管理指導料が行政刷新会議の事業仕分けの対象になるといううわさが走り、波紋を広げた。結果として対象にならなかったが、12年度の調剤報酬改定に向け、財務省などからは同指導料の不要論が上がっている。身から出た錆、というしかない。
2011年11月 1日 09:30 | イオン・ウエルシア関東・医療・医療政策・厚生労働省・日本調剤・日本チェーンドラッグストア協会・薬剤師会・グローウェルホールディングス


