武田薬品工業の品行⑩ ~78年住民協定を反故にし排水・排気垂れ流し~
東北関東大震災は本稿の締切時点でいまだ被害の全貌すら明らかになっていない。戦後はもちろん、近代、いや日本史上で特筆される災害であることは間違いないだろう。被害に遭われたすべての方に対しお見舞いを申し上げたい。
その上で明記しておきたいことがある。不謹慎のそしりは免れないにしても、だ。武田薬品工業の所業についてである。東京電力福島第一発電所でこの間起こったことは何を意味しているのか。第一に情報公開の重要性、第二に危機管理の広域化の必然性である。
第一点については言うまでもない。原理原則にを持ち合わせないリーダー、二転三転する説明、問題点への理解はおろか基礎的な知識すら怪しい「実務者」、「素人」「一般人」への説明に関する熱意や技術などかけらもない「専門家」―。昨年来、続けて見続けてきた光景とあまりに似通ってはいないだろうか。藤沢市長・海老根靖典、鎌倉市長・松尾崇の両名はもう一度自分の判断が正しかったのかを問い直してもらいたい。
第二点は少々説明が必要だろう。原子力発電所やP3実験室のような取扱要注意物件で事故があった場合、影響の範囲は容易に特定できない。建設や操業の節目に当たっては、より広範な地域で検討し、合意形成を図っていく必要がある。
本誌がかねて指摘しているように、湘南研究所問題の当事者は鎌倉・藤沢両市だけではない。横浜市をはじめとする近隣の自治体や住民も加えたフルオープンでの議論は不可欠だ。武田の鈴木孝平・行政住民チームリーダーがこれまで血道を上げてきた当事者の矮小化・分断工作がいかに危険で無謀なことか。鈴木本人以外なら理解できる。
池内利行による取材拒否が判明
昨年12月26日の「説明会」以来、待ち続けている大川滋紀取締役への取材。2月26日、武田のコーポレート・コミュニケーション部シニアリーダー、池内利行から返答があった。
〈先日、弊社湘南研究所の見学会に足をお運びいただき、ありがとうございました。その際に重ねてご依頼をいただきました大川への面談についてですが、確認をいたしましたところ、スケジュール調整が難しい状況です。現時点では、具体的な時期や確約は難しい状況にあります。お急ぎということであれば、文書回答を検討させていただくことも可能です。そちらもお待ちだといけませんので、取り急ぎ、ご一報をさせていただきますがよろしくご容赦のほどお願いいたします。〉
大川への対面取材は説明会の際に拒否されたことの補完に過ぎない。説明会を傍観者として拝見・拝聴するだけでは不十分だ。報道における両論併記の観点からも池内に再度取材を申し込む。待つのはやぶさかでない。大川の繁忙期が終わるめどを示してほしい、とも付け加えた。3月24日現在、池内はまた長い沈黙期間の中にいる。
2月28日、氷雨と呼んでいい天候の中、東京・日本橋の武田本社前に数人の人影があった。武田問題対策連絡会の有志である。朽ちかけた巨象の死骸を思わせる色合いの社屋を前に、竣工式を強行した湘南研の問題点をあらためて訴えるべくビラを配布。メガホンでメッセージも伝えた。
持参した要望書を武田側に渡す際、本誌も社内に入った。予想通り、事前の申し込みがないことを理由に受付の女性社員を通して排除された。
要望の内容自体はいたって穏当なもの。7項目の要旨を挙げておく。①実験動物焼却外部委託の安全 ②P3実験は実施しない ③市民参加の安全協議会設置 ④研究所排水については1978年住民協定を遵守 ⑤排水・排気の管理方法の厳格化 ⑥3R(代替、削減、改善)の実践と進捗状況の公開 ⑦公害防止施設への市民の見学会実施―。いずれもこれまで住民側が何度も希望してきたが、一顧だにされていない。回答の期限は20日。対面で、との条件付きだ。
午後1時にはほぼ同じ顔ぶれが東京高等裁判所822号法廷にそろった。湘南研の排水を公共下水道に流すことの差し止めを訴えた裁判の控訴審が行われたのだ。この日は原告から3人が口頭弁論に臨んだ。傍聴席には武田のプロジェクトリーダー・野村一彦と鈴木の姿。閉廷後、逃げるように去っていったが、よほど多忙なのだろう。
前記要望書にもある通り、藤沢市内で操業する企業50社は市と排水は自社で処理する旨の78年に協定を結んでいる。武田も今は湘南研が建つ場所にアリナミン工場があった当時、これに加わった。製薬業界最大手企業が行政と結んだ協定を反故にしてP3実験を強行しようとしている。
武田は何と震災への対応を理由に要望書への回答の延期を申し出た。地域住民はおろか、被災者をも愚弄するのだろうか。さすが業界首位だ。
3月いっぱいで定年を迎える鈴木は新たな分断策に余念がない。住民に公の場で名指しで批判されても、まともに返答もできない。複数の住民は「話をするのも嫌」と顔を背ける。鈴木が武田で築いたキャリアとは何だったのだろうか。
元感染研主任研究官が安全性に疑問
締め切り間際、湘南研の安全性に専門家が正面から疑問を呈した。新井秀雄氏、バイオハザード市民予防センター代表幹事だ。国立感染症研究所で細菌部主任研究官を務めた経験もある。
見学会に参加しての所感を3月22日、同センターのウェブサイト上に発表した。ここでは重要な2点の指摘だけを引いておく。
①P2実験室の安全キャビネットの排気
〈室内排気されず、ダクト連結によって建物屋上の排気口から空中へ強制排気される〉仕組みになっている。〈内部の従業員が吸気したくない(中略)排気を周辺住民へ吸気せしめることを押し付ける構造〉といえる。P3以前の問題だ。
②排水施設の一次貯留槽の仕様
〈地中への埋込み型の貯留槽〉。〈最新のバイオ施設では地面から架台で支えたタンク式〉が当たり前。新井氏は〈驚きであった〉と記した。
大川との対面が待たれる。(敬称略)
見学会当日はものものしい警護がついた湘南研

2011年4月15日 09:50 | 医薬品メーカー・武田薬品工業・経済


