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浜六郎の臨床副作用ノート~神経障害(5)~

浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表

 薬剤性神経障害を分類し、発症機序を考察する1)
薬剤性神経障害の分類
 神経系は人の精神活動と肉体活動を正常に保つために極めて複雑な営みを司っている。ヒトゲノムをコードする3万5000種類の遺伝子のうちの約3分の1が神経系に関係すること2)から、その重要性がうなずける。一般神経疾患の教科書的分類2)、薬剤性神経障害に関する成書3-5)の分類を参考にし、新知見も加味した筆者の分類を表1に示す1)。神経疾患の大部分が薬剤でも引き起こされることが分かる。
神経障害の発症機序と薬剤性神経障害
 神経系障害の発症にかかわる薬剤の影響を理解するため、神経活動にかかわる神経信号の伝達機構(化学伝達物質、シナプス、受容体ど)、ニューロンの成長、分化、修復、生存・壊死・アポトーシスの基本を見てみる。
1)化学伝達物質、シナプス、受容体
 哺乳類の脳の大部分のシナプス伝達を仲介する伝達物質は、γ-アミノ酪酸(GABA:抑制性伝達物質)とグルタミン酸(興奮性伝達物質)などアミノ酸である。GABA受容体拮抗剤やグルタミン酸受容体作動剤はけいれんを誘発し、GABAシナプス抑制作用を増強する薬剤(ベンゾジアゼピン剤など)や、グルタミン酸受容体拮抗剤はけいれんを抑制する6)。しかし、興奮性シナプス活動の抑制剤(ドパミンD.抑制剤である神経遮断剤)は典型的なけいれん誘発薬剤であり7)、NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤(フェンシクリジンやケタミンなど)は催幻覚剤である。GABA受容体作動剤(ベンゾジアゼピン剤)は条件により逆説的にせん妄を生じ得る。
 アセチルコリン、ドパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ニコチンなど、脳内の他の化学伝達物質のバランス異常(過剰刺激、過剰抑制)、Cl-やNa+、K+、Ca2+、Mg2+などの濃度異常(低値/高値)も、けいれん誘発6)など種々の神経障害に関係していると考えられる。
2)ニューロンの成長、分化、興奮毒性、壊死、アポトーシス2)
 神経細胞の成長、分化、修復、生存の延長には神経成長因子(NGF:nerve growth factor)やβアドレナリン受容体が関係しており、これらに影響する物質は精神神経系機能異常を来し得ると考えられる。興奮毒性は、興奮性アミノ酸受容体の過剰刺激による神経細胞死neuronal cell death)である。虚血時や異常興奮、神経毒が、グルタミン酸受容体に対する過剰刺激を介してニューロン壊死を起こす機序が解明されてきている。NMDA受容体に対する過剰刺激はCa2+イオンの過剰流入、ミトコンドリアでの大量フリーラジカル産生、ニューロン壊死へのカスケードを起こす。グルタミン酸の過剰刺激が比較的軽度ならミトコンドリア内にアポトーシス誘導因子(Aif:Apoptosis-inducing factor)が形成され、徐々にニューロンが縮小し、時間をかけてアポトーシスが生じる。
3)軸索変性とニューロン壊死
 薬剤性を含め末梢性ニューロパシーの病理学的変化は、主に軸索変性(ワーラー変性様)と、それに伴う二次的な髄鞘の脱落である4)。軸索変性が軽度でニューロンが変性しなければ軸索が延長し、髄鞘とともに再生するが、変性の程度が大きければニューロンは壊死し再生不能となる。髄鞘が先に脱落する脱髄障害では軸索は保たれ、シュワン細胞の再生で髄鞘が再生すれば回復する。脱髄障害の頻度は軸索変性より少ない。ニューロパシーはたいてい両者を伴っている4)
4)タンパク・異物の蓄積
 異物の神経組織への蓄積が神経障害を生じるのは当然である。ただし、アルツハイマー病のベータアミロイド原因説2)は妥当であろうか。ベータアミロイドの蓄積は、ニューロン壊死の原因というより、一連の代謝状態を反映した結果にすぎないのではないかと筆者は考えている1)
5)免疫異常・炎症反応など
 中枢神経系内でも修復反応としての炎症反応、免疫反応があり、それを修飾することによる薬剤性精神神経障害があり得る。ミクログリアや星状グリアがこれらの反応に関係している。
薬剤性神経障害の機序
 中枢神経障害は①直接神経毒性、②間接毒性、③虚血性変化のいずれかによるとされる3)が、これに分類し得ない機序がある。筆者の考えで再分類したもの1)が表2である。例えば、遺伝毒性や染色体毒性物質では、受容体異常を起こし得るし、物質蓄積による神経障害は直接毒性である。
 一方、間接毒性は、グルコースや酸素、ナトリウムなど生命活動必須物質、生理条件の異常がまず挙げられる。血栓や出血が、血圧(上昇/低下)や凝固能(亢進/低下)への影響から生じ得る。感染症への非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)使用後の脳症は、高サイトカイン血症を介して起きるため間接毒性に分類できる。感染症に伴い免疫異常を来して脱髄性障害を生じ得ることや、薬剤や医療用具による感染症そのもの(MMRワクチンによる無菌性髄膜炎、乾燥硬膜によるプリオン病)、非加熱血液製剤によるHIV感染の合併症としての神経症状もいわば間接毒性である。交感神経作動剤・血管収縮剤の過剰/長期使用あるいはその離脱症状としての炎症反応や血管拡張による頭痛など神経症状も、これも間接傷害・障害に分類すべきだ。
表1 薬剤性神経障害の病態による分類
A-1.中枢性障害(機能障害)
1)昏睡/意識障害/呼吸抑制(脳症)
2)けいれん(薬物離脱を含む)
3)精神病症状(妄想・幻覚など)、認知障害/せん妄など
4)錐体外路障害(悪性症候群を含む)
5)失調
6)耐性・依存・逆耐性(感作)
7)気分障害(うつ病など)
8)不安、その他
A-2.中枢性障害(器質傷害)
1)運動ニューロン疾患:ALS(様疾患)
2)脱髄疾患(MS、ADEM、PMLなど)
3)感染症/関連障害(脳症を含む)
4)脳血管障害
5)新生物、その他
B-1. 末梢性障害(機能障害)
1)末梢神経症状(麻痺・亢進)
2)自律神経症状(麻痺・亢進)
B-2.末梢性障害(器質傷害:ニューロパシー)
1)脳神経(視/聴/嗅覚/味覚など)
2)末梢性ニューロパシー
 ・感覚性ニューロパシー
  単神経炎/多発単神経炎/多発ニューロパシー
 ・運動性ニューロパシー(ギラン・バレー症候群)
 ・自律神経性ニューロパシー
 ・手袋/靴下型感覚障害(SMONなど)
C-1.神経筋障害(神経・筋接合部)
C-2.神経筋障害(骨格筋)

文献1)より一部改訂
表2 神経障害の機序による分類
A.直接傷害・障害
1)シナプス間伝達と過剰刺激/過剰阻害と、その離脱:
 興奮毒性(excite toxicity)などによるニューロン壊死、アポトーシス
2)神経伝達物質受容体(イオンチャンネル型、代謝型)異常
3)神経(細胞/線維)代謝の障害
4)物質蓄積
B.間接傷害・障害
1)生命必須物質(血圧/酸素/血糖/Na)欠乏/過剰、欠乏の急速是正
(例:低Na血症急速是正時の浸透圧性脱髄症候群)
2)血栓、出血:血圧上昇/低下、凝固能亢進/低下
3)感染症悪化に伴う高サイトカイン血症、神経系感染症増悪・発症、
 免疫抑制物質全般(ステロイド、免疫抑制剤、抗がん剤、
 NSAIDs、抗サイトカイン物質など)
4)免疫異常誘発:
 抗TNF-αなど抗サイトカイン物質、ワクチンなどで脱髄性障害
5)感染症:
 ワクチン株による感染性髄膜炎・脳炎など、プリオン病(CJD)、
 非加熱製剤によるHIV感染の合併症としての神経症状
6)交感神経作動剤・血管収縮剤過剰/離脱:
 炎症反応誘発、血管拡張
7)トランスポータ阻害・促進による異物排除の不全
文献1)より一部改訂
参考文献
1)浜六郎、TIP「正しい治療と薬の情報」:25(5):63-70, 2010
2)Kasper DL et al (eds):Harrison's Principles of Internal Medicine
16th ed, McGraw-Hill Companies, New York, 2005
3)Blain PG, Lane JM. "Neurological disorders" in Davies D.M.
et al eds. Davies's Textbook of Adverse Drug Reactions 5th ed.
Chapman & Hall Medical London,1998
4)大津史子、浜六郎、患者の訴え・症状からわかる薬の副作用、じほう、
2007年
5)高倉公明、宮本忠雄監修、薬物が起こす神経障害、メジカルビュー社、1997
6)Brunton LB et al. Goodman & Gilman's The Pharmacological
Basis of Therapeutics 11th ed McGraw-Hill, 2006
7)浜六郎、薬剤性のけいれん、MediCon.2(2):24-27,2009

2010年7月 1日 16:09 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート

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