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日医会長選・立候補者インタビュー③唐澤祥人・日本医師会会長(下)

唐澤祥人・日本医師会会長

──3月1日の公示以降の反応をどう受け止めておられますか。
唐澤 やはり厳しいですね。今の医療の状況が落ち着いたものではなくて、むしろ医療崩壊という表現がされているぐらいの状況の中ですから。要望が厳しいし、今まで実現されてきたものに対しても、是正すべきという意見も多い。そういうものを全部受け止めて、これからまた取り組んでいくということでしょう。具体的にはいろいろあると思います。
──医療崩壊はご自身の任期中に進展したと思われますか。
唐澤 2006年の春、福島県の大野病院の事件をきっかけに、あるいはその前に始まった新医師臨床研修制度の影響で進んだと思います。新研修制度によって若い先生方も自分で進路を決めることになった。私共が医者になったころは、まだ大学の枠組みの中で医師を育てたり、研修したり、あるいは僻地・離島まで配置する大学の機能があったんです。これがなくなって、ご自分の判断で決めるようになりましたから、厳しい環境の医療に赴く方がやはり少なくなりました。意欲はあっても、とてもやりきれないという状況ですから。そういう意味で状況は悪くなっている。医師不足や医師偏在、双方ともに悪化している。それからもう一つ、これは絶対にはずせないんですが、女性医師の増加があります。30歳前後の女性医師の占める割合が5割とは言いませんが、3割を超えている。医師になったからには、「一生医療をやりたい」という誓いを立てるわけです。途中で離職したり、退職したりすることは無念至極です。しかし、女性医師に関してはいくつもハードルがあって、医療を続けられない。何とか離職や退職することなく続けられるような環境を実現することが大事です。このままいけば、女性医師の割合は将来は限りなく4~5割に近づきます。もう5割と言っても間違いではないとも言える状況です。そういう時代が目前になって、半分の女性医師が継続して医療に参加できないような状況ではいけません。今から手を打つということが大事。加えてご存じのように高齢化がどんどん進みます。高齢者に対する医療も重要ですね。そうした医療への需要も高まってきます。すると、ますます医療をお届けする側の力が相対的にも落ちてくる。これは国民に大きな不安を与えると思っています。私が一番気にしているところです。
──医師不足や女性医師の処遇、高齢などの問題はいずれも任期中に浮上していました。日医会長としてどういった対策を講じてきのですか。
唐澤 現職ですから、今やっていることをお話しすればいいんでしょうが、具体策はいろいろ提言しても、ぴたりと的にはまっているかどうか分からないんです。日医にはたくさんの委員会があります。今日もやってきましたけれども、女性医師の方々の就業支援策、あるいは非常に厳しい環境にある勤務医の皆さんの過重労働を改善するために何が必要なのか考え、健康管理を行っています。日医の医師の意見をもっと強く、情報発信力を高めなくてはいけませんから、目的に向かってどういう手段が必要かということも議論しています。具体的に何をやったかといえば、そんなことです。一つひとつの手当てをするのではなくて、もっと根本的な解決の道をこれからやりたい。
──小泉純一郎政権以降、日医の政策提言はなかなか実現しないままでした。その理由は何だとお考えですか。
唐澤 私は経済学者ではありませんので、事細かに分析したわけではありません。ただ、当時は日本の国全体が経済・産業の活力に視点・重点を置いていた。地域や生活環境、暮らし、人々の絆、親子関係、それからご高齢の方々や子供たちに対する思いをちょっと置いてきたのではないでしょうか。それに対して、「あ、ここに忘れ物がある」と目を向けたのが民主党政権です。小泉政権のときには経済・産業中心の政策だったと思います。なかなか私共が言っても聞いてはもらえませんでした。いえ、「なるほど」と聞いてはくれました。けれど、その後で「そうは言っても」という言葉が必ず返ってきました。やっぱり経済・産業上の問題なんです。経済・産業がうまくいくことが明治維新以来の国是のようになっていたんでしょう。まさに今、大転換の時期に入ったと思っています。
──政権交代後、日医は相変わらず政策の実行力を求められている中、中央社会保険医療協議会(中医協)の委員から日医の代表が外される事態がありました。それを乗り越えて民主党と良い関係を築くためにはどうすればいいとお考えですか。
唐澤 日医は医師だけで作る団体です。組織率の問題もありますから、医師のほとんどと言った方がいいでしょうか。そういう方々の参加している団体の意見は政治にとって大事なもののはずです。たとえ厚労相の諮問機関といえども、意見を排除するのは、私は適切でないと思います。ただ、どこから委員が出ましても、今は非常に勉強している方が多くいます。そういう方々の意見は正しく出ていくでしょう。これからの課題は政治に対してきちんとした意見を申し述べる人材をたくさん作ることです。そして、中医協に限らず、意見具申の機会をたくさん作っていただくことを望みたい。
──政策提言の力を強めていきたいとおっしゃっていますが、政策を作るのは会員である医師ということになりますか。
唐澤 そうです。基本的には医師ですね。いろいろな提案の素案や骨子に関しては、日医総研というシンクタンクもあります。ごめんなさいね、現職の範囲でものを言ってしまって。ほかの候補者の皆さんに失礼かもしれませんが、日医総研には医療政策課というセクションもあります。そこには医師もいますので、いろいろ考えてもらう。我々はその素案や骨子に魂を入れるというか、医療担当者としての思いを込める。この過程が大事なんです。その手続きを踏んでから初めて日医の医療政策が完成する。そこに注力していきたい。
──現状の人員を活用して政策を作っていくということですね。それでより良いものができていくとお考えですか。
唐澤 日医が医療政策に本格的に取り組み始めてから、まだそんなに時間がたっていません。検証もまだ十分にされていないんです。ですから、政策を提言し、そして実践する戦略を掲げ、実行していく。実現したらどうかは先の話です。それを検証して評価して、また取り組んでいく。その間にも、先ほどお話ししたように高齢化は進んでいきますし、少子社会は是正できない。医師をはじめ、その他の医療職種のアンバランスもあります。そういったものがどんどん進んでしまえば、これは手遅れです。時々刻々とそれに見合った活動をするのも大事です。何か一つの医療政策に凝るということではなく、時々刻々変化している社会の状況に対応できる行動力や活動力を養いたい。提言力、意見発信力と言い替えてもいい。そういうものに取り組むべきだと思います。
──組織率の低迷への対策はありますか。
唐澤 考えていることはいくつかあるんです。歴史的なことをお話ししますが、確かに日医は開業医の団体だった時代がありました。これは明治時代くらいの昔からです。ところが、戦後の医師会はそうではない。なぜ、開業医の団体だったかというと、当時は国公立病院の勤務医や大学教員は入れなかったんです。新しい医師会は本当に国公立病院から大学の先生を含め、あらゆる分野の医師が入っているわけですね。多種多様な先生方が参加しやすくするためには、まず経済的なハードルを下げる。会費の問題ですね。「入会によって何かメリットがあるか」という疑問の声もよく上がりますから、それに対してはもちろん、学術や医学技術、医学の情報をすみやかに提供する。「今すぐこういう情報をよこせ」という注文にも応えられるようにしたい。多くの医師がこれだけ研鑽しているのを誰が評価するのか、誰が見てくれるのかという問題もある。大学にはかつてのような医師派遣機能がなくなってきてもいます。こう考えていくと、日医の役割は非常に大きいし、大事で必要な組織だと思うんです。医師のこれからの活動を評価し、発表し、研修の内容も整備して国民の皆さんに報告する役割を担う。それからもう一つ、日医そのものが社会の中でどういう位置付けになっているかの確認も重要です。
──診療報酬改定作業の前後に財務省が喧伝したように、開業医は優遇されているとお考えですか。
唐澤 現状でどちらかを優遇し、勝ち組、負け組に分けるなんてナンセンスです。あり得ないことでしょう。先ほど申し上げましたように、財源がきちんとある中でどう調整するかが大事。財源をあまり充てないで、調整するというのは、......何て言うんですか......。
──財政均衡主義でしょうか。
唐澤 そう、その中で調整すると、やはりひずみが大きくなるんです。もともと開業医優遇と言われているのに、そうした間違った施策を打ち続ければ、さらにどんどん言われます。先ほど国民医療と言いましたけど、ほとんどの医療機関は今、保険医療機関ですし、医師の大半は保険医です。そういう組織や人間が保険医療を支えようと頑張っている。もう少し温かい支援策がないと、本当に無理に無理を重ねていけば、個別的な努力では早晩支えられなくなる。その結果、システム全体が駄目になるのが一番怖い。そうならないうちに情報を発信したいと思います。これは本当に真剣な話です。「裕福だから」「勝ち組だから」とのんびり構えている場合ではない。真剣にやっていかないといけません。
──そうは言っても、勤務医が疲弊している事実も一方にはあります。そうした方々向けの施策にはどのようなものがあるとお考えでしょうか。
唐澤 勤務医の方々はいろいろな分野におられます。特に一番厳しいのは、医師になって5~10年の皆さんです。キャリアを重ねていけば、同じ勤務医の先生方とはいっても、病院長さんや部長さん、あるいは教授の先生、医学部長さんになっていく。現場のことはよく分かるけども、直接携わっていない管理的な立場です。そうした管理的な立場の方ではなく、真の意味で現場を支えている方々がどんな思いでいるかを明確に反映しなくてはいけない。勤務時間が長かったり、勤務時間が短くても厳しい形で拘束されていたり、常に訴訟の恐怖におびえながら医療を提供していたりするかもしれない。あるいは乏しい医療材料や医療設備、少ないスタッフで医療を行っていることもあるでしょう。本当の実態は現場の先生でなければ分かりません。そういう方々の意見を十分に反映して、そして情報として発信する。こうした問題をどうしたらいいか。今、日医でやっていることをあまり言ってはルール違反ですが、テレビコマーシャルをはじめ、さまざまなメディアの方に協力をいただくことになります。今日のこの取材でも、是非お力添えをいただきたいと思っています。
──地域連携や新型インフルエンザ対策で重要な位置を占める郡市区医師会へのバックアップの体制をどう取っていかれますか。
唐澤 そうですね。これは本当に大事です。今度の新型インフルエンザのときでもそうですし、地震や災害のときでもそう。どんなときでも、本当にその地域に密着している地区医師会が最も大事なんです。日医はそういう方々と連携しなきゃいけない。ただ、地区医師会は歴史的には都道府県医師会が束ねているんです。ですから、都道府県医師会の役割が大事。これからはそういうかかわりがたくさん増えてくると思います。日医は別に上下関係にあるわけではなくて、都道府県医師会の情報が今は主体です。これからは特に情報を集めるに当たっては、日医と郡市区医師会との連携が重要になってきます。情報の面からいえば、もっと直接的にやり取りをしたい。地区医師会で実施しているいろいろな事業の中には、厚労省から発するものや都道府県から発するものがあります。日医に都道府県からいただくこともあるし、厚労省から日医を介して各都道府県に発することもある。今度の診療報酬改定作業でも、「○○地区が診療報酬の新しいやり方を全然理解していなかった」というのはまずい。実際には実に整然と行われていますので、それを見ていただきたい。いろいろな思いがあるかもしれませんが、システムとしては素晴らしいと思います。そういう流れを大事にしたい。
──さらなる情報公開を求める会員の声も一部にはあるようです。
唐澤 議事録を公開したり、誰でも直接参加できる議論の場を設けたり、みんなで議論して大きく意見交換の場を広げていったりするのは大事な作業。しかし、時間がかかるし、実務的にどうなるか分かりません。意見集約という面では今、いろいろなツールがあります。それらを利用したりして、意見交換の場を広げていくべきでしょう。会議形式でやるとなると、非常に限られてしまうような気がします。しかも、人間同士の議論は難しい。議論している最中に、本筋から離れた方に行ってしまって、非常にとげとげしい言葉のやり取りになってしまって、結局前進しないということもある。前進できる情報交換と意見交換を目指したい。公開すればすべていいというわけでもなさそうですし、役員会や理事会といったものも公開できるか。あるいは新しい方式で、すでに会議に参加している職種でない新しい別の方々が参加するような形を取るか。率先して当事者が取り組むべき問題でしょう。うまくいけばいいけど、失敗すると、ぎくしゃくしたものになります。でも、試行錯誤を繰り返しながら取り組んでいるところが日本のあちこちにありますから。ほかに電子会議という手段もあります。これならデータを公開して、誰でも見られるようにすることができます。余談ですが、例えば、東京には区医師会があります。そこでは「診療報酬を上げる」なんて議論はしてないはずです。私もずっと区医師会の活動に携わってきましたけど。そこでやるのは、やはり地域医療や行政との連携だけです。真面目にやっています。そうした実態を知っていただくことは大事ですね。「何だ、医師会っていうのは要するに懇親会みたいなもんで、しょっちゅう飲み屋に行ったりなんかしているんだろう」と誤解されるといけません。きちっと時間を取り、資料を見て、どういう地域医療に取り組んでいるかをちゃんと整理・実施しています。こういった決め事を各医療機関に伝達し、参加してもらう。何か危険なことがあれば、今は何というんですか、メーリングリスト? 何か知りませんが、ああいうツールで意見を交換しています。非常に情報の交換が多くなっています。会員の皆さんもよく分かっているはずですので、これからもどんどん進んでいくと思います。
(3月17日、東京都医師会館で収録)

2010年3月29日 21:23 | 医師会・医療

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