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浜六郎の臨床副作用ノート~神経障害(2)~

浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表


 ジストニア(筋緊張異常反応)、アカシジア(静座不能症)、パーキンソン症状、遅発性ジスキネジアが錐体外路症状として一般的だが、私はカタトニアや悪性症候群を、錐体外路症状として扱っている(1)。悪性症候群はカタトニアやパーキンソン症状に伴う筋強剛を経て、これらが増悪した病態と考えられ、悪性症候群予防のために重要と考えるからである。

【症例】1 -(2)
 30数年前に当直で経験した例である。7歳、女児。A小児科医から、後弓反張のため破傷風を疑われて紹介され救急車で受診した。受診時、頸をやや右後方に反り、眼球は右上方に向けているが、意識はあった。脈拍140/分。血圧正常。痙攣はなく頸部硬直もないので髄膜炎ではない。
 前日の朝から3~4回嘔吐し、昼ごろ38.6℃の発熱で、午後4時ごろ近医Bを受診し、急性胃腸炎との診断で、注射2本を受け、薬を処方され指示通りに服用した。翌日昼2時ごろ、急に「目が痛い」「目を閉じようとしても閉じられない」など訴え、急に首を傾けたり、右後方に反り返らせたり、目を右上に上転させたり、わけもなく「しかめっ面」をしたりした。母親が「真っすぐに向きなさい」と言ってもできない。約20分後一時軽快したが、その20分後に同様症状が出現。A小児科医を受診し、待合中に嘔吐した直後、後弓反張と、逆に前に体を強く曲げることを繰り返した。この間、意識は清明であったが、A医師は後弓反張を重視し破傷風を疑い、紹介に至った。
 B医師では、メトクロプラミド(プリンペラン)10mg静注(他はスルピリン筋注)を受けていた。静注10分後ぐらいに、少し首が変な具合に動いたという。メトクロプラミド(5mg)2錠ずつ1日3回毎食前(成人常用量)が処方されていた。当時たまたま、文献を読んでいたので、メトクロプラミドによるものと考えることができた。メトクロプラミドは中止し補液点滴の上、経過観察入院とした。入院後間もなく眠り始め症状も消失し、翌朝には完全に回復。その後異常なく5日後退院。退院後の検査で脳波異常もなく、メトクロプラミドによるジストニアと確定した。
 文献例には、ジストニアのため、アフリカからイギリスまで飛行機で運ばれ、到着時には治まっていたとの小児例がある。
【症例】2-(2)
 54歳、女性。気管支喘息と代償性肝硬変。「よく首が突っ張る」「首が勝手に動く」などの症状を訴えても主治医は「気のせい」と相手にしてくれないと訴える。よく診ると、少しだが首が後ろに反っていた。メトクロプラミド1日30mgを内服していたので、メトクロプラミドを中止し、ジフェンヒドラミン少量を使用したところ、それまでのような症状は出なくなった。
錐体外路症状の種々症状と特徴
1.ジストニア(筋緊張異常反応)(2)
 症例1が典型例。全身のどの部分にも屈筋と伸筋のアンバランスな筋緊張(dystonia)が生じる。呼吸不全に至ると重症である。軽い場合は、「肩凝り」など目立たない症状が徐々に起きることもある。一見変わった動きのため「変な人」とか、身体化障害(いわゆる「ヒステリー」)と扱われてしまうこともある。
2.アカシジア(2)
 「静座不能症」という言葉通り、静かに座っていることができない、立ってもじっとしていられず、部屋中をウロウロして座ってみたりするが、やはり落ち着かず、また立ってウロウロする。大抵は強い焦燥感を伴っている、という症状である。
3.カタトニア(1,3)
 焦燥感があり、動きが極めて少ない(無動状態)。統合失調症でもしばしば生じる陰性症状「カタトニア」に似ており、統合失調症に用いるハロペリドールなど神経遮断剤を用いて生じるため「神経遮断剤カタトニア」と呼ばれる。
4.パーキンソン症状(2)
 全身の筋肉が緊張状態になるため、筋強剛を示す。
5.悪性症候群(1,3)
 カタトニアあるいはパーキンソン症状で四肢の筋強剛が持続すると発熱し、悪性症候群に進展し、不可逆的になることがある。
6.遅発性ジスキネジア(2)
 1~5は神経遮断剤やメトクロプラミドなどの過剰症状であり、薬剤中止により回復するが、遅発性ジスキネジアは長期使用後に発症し、減量や中止で悪化するのが特徴である。
 全体としての特徴(2)は、ジストニアは最も急性で小児に起こりやすい。アカシジアは青年から壮年期に、カタトニアやパーキンソン症状、悪性症候群はややゆっくり中高年に、遅発性ジスキネジアは長期使用後に発生しやすい。ただし、青年期でも、カタトニアから悪性症候群を来して、致死性の不整脈により低酸素性脳症で寝たきりとなった例があり、症例2のように中高年でもジストニアが生じ得るので、あくまでも目安である。
錐体外路症状を起こす薬剤
 詳細は発症機序を含め別に譲る(2)。神経遮断剤や非定型抗精神病剤、制吐剤、ある種の抗ヒスタミン剤(オキサトミドなど)が錐体外路症状を生じ得る。また錐体外路症状を抑制する薬剤(抗パーキンソン剤、抗パーキンソン作用のある抗ヒスタミン剤、ベンゾジアゼピン剤など)を中断した場合も、その離脱症状としてカタトニアやパーキンソン症状などが生じ得る。
鑑別すべき病態と対処方法
 症状が急に起きれば診断は容易だが、徐々に生じると困難を伴う。しかし、可能性のある薬剤使用前後の症状を比較すれば、意外と簡単である。
 神経遮断剤使用後に生じた焦燥感と無動(カタトニア)では、元の病態(統合失調症など)によるか、薬剤性かの鑑別が重要である。薬剤性を意識しなければ、精神科医も誤診し得る。対処方法は、神経遮断剤(抗精神病剤)をいったん減量する。軽快すれば薬剤性であり、悪化すれば原疾患の悪化と判断できる。一時悪化には再増量で対処が可能だが、増量で対処すると、症状は悪化の一途をたどり悪性症候群へと進展し危険である。
 人格障害や、身体化障害と誤診しないためにも「薬剤」を常に意識することが肝要だ。
錐体外路障害の治療(2)
 薬剤性錐体外路症状の治療の基本は原因薬剤の中止である。特に抗精神病薬以外は「即中止」で回復する(長期使用でなければ)。薬剤離脱性の錐体外路症状の場合は、中断していた薬剤を再開することである。症状を短期に回復させるためには、どの錐体外路症状に対しても、抗パーキンソン作用のある抗ヒスタミン剤であるジフェンヒドラミンやプロメタジン、抗パーキンソン剤のビペリデンが有効である。筋強剛の初期にはベンゾジアゼピン剤も有効とされる。薬剤性パーキンソン症状には、L-ドーパは基本的に無効である。
 問題は神経遮断剤性のパーキンソン症状と遅発性ジスキネジアである。神経遮断剤による錐体外路症状は、原則的には減量・中止だが、精神症状と錐体外路障害のバランスによって、抗パーキンソン作用のある抗ヒスタミン剤ジフェンヒドラミンやプロメタジン、抗パーキンソン剤ビペリデンを併用するなどして個々に判断する必要がある(上記対処方法参照)。
 遅発性ジスキネジアはいったん生じると対処が極めて困難であるため、予防が肝要である。

参考文献
(1)浜六郎、薬剤性肺障害(4)悪性症候群と肺炎、MediCon. 3(1):22-23, 2010
(2)大津史子、浜六郎、患者の訴え・症状からわかる薬の副作用、じほう、第11章:神経障害①錐体外路症状(p141-149)2007年
(3)オーストラリア治療ガイドライン委員会著、医薬品・治療研究会他編訳、向精神薬治療ガイドライン(原著4版改訂増補版)、NPO法人医薬ビジランスセンター、2004年、訳補2:神経遮断剤性悪性症候群について(p260~268)

2010年3月 1日 19:53 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート

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