日医会長選・立候補予定者インタビュー②森洋一・京都府医師会会長
──今回の会長選挙の争点は何だとお考えですか。
森 日本医師会が医療の原点に戻れるかどうか。
──唐澤会長率いる現体制をどう評価していますか。
森 4年前に政権与党・自民党とのつながりを深めると唐澤会長が立候補されました。そこから政治とのつながりが日医の会長選挙に大きく関与するようになった。あってはならないことです。4年間、社会的には医療崩壊ということで、診療報酬についても少しずつ改善はされている。その中でも大きな課題が残っているのではないか。一つは現執行部で医療安全の問題をどうするのか。一般の会員や勤務医の意見が反映されなかった。勤務医が非常に不満を持っています。今は一応収まったが、総合医の問題もある。これも突然に出てきた。診療報酬に対して対応させられるような危惧があった。それは収まりましたけど、会員にとっては非常に不満が多い。現在、生涯教育制度のバージョンアップということでやっておられますけれども、勤務医にとっては非常に不満が多い。勤務医に目が向いていないのでは、という議論が出てきたと思っています。昨年の夏以降のインフルエンザの問題もある。僕は小児科ですから余計にそうなんです。ワクチン行政や感染症対策が遅れてきている。そのあたりの問題や課題がこの4年間で出てきているのではないか。
──現在、日本の医療界が必要としているリーダー像は?
森 多くの会員や開業医、勤務医の区別なく、日医をどのようにしていくか、日本の医療制度をどうするかというビジョンを示せるリーダーシップが必要です。
──実現したい施策を、優先順位をつけて三つ挙げてください。
森 まず一番は基本理念を構築して、医療政策を──我々は「社会保障立国論」と言っておりますが──理念に基づいたものにする。社会保障が日本の国家医療を救っていくということです。今の日本医師会のグラウンドデザインのさらに根幹になるような理論を構築して広めていきたい。もう一点は勤務医に対する過重労働。これには女性医師の労働環境の改善。これも非常に大きいと思います。そして今一番問題とされている日医の改革。会員の声が反映できているのか、会員に広く日医の活動が見えているのか、という大きな疑問がありますから。勤務医の環境改善を含めてどういう対応ができるかということに取り組んでいかないといけない。絞るのであれば、その三つになります。
──ほかの候補に比べてご自分が優れている点は何ですか。
森 きちっとした理念を持ってやっていこうとしています。基本的な医療、医療制度に対する考え方を持って私は立候補している。その点が多くの会員のご支持をいただけるかと思う。
──公益法人改革にはどう対応されますか。
森 基本的に国民の健康と医療を守る専門家集団としての集まりということで、公益法人化を進めていくべきだと思っている。それをクリアするためには、医賠責の問題など、いくつかの課題があります。それから政治とのかかわりでは、2年といわずできるだけ早い時期に医師連盟のことも考えていかないといけない。非常に大きな問題ですので、執行部や委員会だけで決めたりすることはありません。今は定款諸規定の委員会がありまして、議論はしてますけど。どちらかというと、定款をどう変えるかという話になっています。それがまとまった時点で、次の執行部になると思います。今度は本当に公益を目指す、基本的な考え方とかを各都道府県の医師会の皆さん方に理解していただかないといけない。そのプロセスが1年はかかるんじゃないかと思います。
──執行部の布陣はどのようにお考えですか。
森 キャビネット制はやめようという声が非常に大きい。ただ非常に微妙な問題。いろいろな考え方の人がそれぞれ上がってきた中で物事をまとめていくとすれば、会長のリーダーシップが問われるのではないかと思います。それに対する自信はあります。優秀な方が去っていかなければいけない状況はつくりたくない。ただ、何人か一緒にやっていただける方には立候補をお願いしていくことになる。
──日本の医療の最大の課題は何だと思われますか。
森 財源の確保。どんな形であれ、質の高い安全な医療を提供していくためには財源が必要です。勤務医の労働環境の問題もそうですが、開業医も相当疲弊してきている。そういうものをしっかり担保し、優秀な人材に医療界に入ってきていただくためには、十分な財源の確保がいるだろうと思います。もう一つは、我々が財源を求めるときに、国民がそれを了解、納得してくれるかどうか。その了解と納得をしっかり見える形で提供していかなければならない。お金だけ欲しいというのでは、とても国民には納得してもらえない。国民の納得を得られるような情報公開、公正な医師会活動と医療提供体制を確保していかないといけない。
──民主党の医療政策をどう評価されますか。
森 基本的にマニフェストにあった医療政策は多くの医師会会員にとっては理解できるし、いい方向性を持っていると思います。医療崩壊が労働環境の悪化、過重労働から来ているというのも正しい認識ですし、医師数が不足しているというのも正しい。医師だけでなく、看護師や医療関係者全般が不足がちな状況になっていますから、それを確保するという理念はいい。もう一点は、この経済状況ですから、当初から言っているように予算の組み替えが必要。僕らはやってほしいと思っていますし、それが実際にできると思って見ております。ただ、いかんせん税収不足があまりにも大きい。財源として何らかの形でどこかから医療なり介護・年金なりに社会保障費として持ってくることができるかというと、相当厳しいだろうと思います。その点で今後どういうふうに対応されるのかをしっかり見ていかないといけない。診療報酬を20%上げるとか、医師の養成枠を1.5倍にするとか言われています。どちらも相当苦しいと思います。そこをどういうふうに微調整されるか。それはやはり日医と話し合いをしながら、いい方向性に持っていく。我々もそれに対してできるだけの提言をしていく。両方の共同作業だろうと思います。
──日医と医療の関係は今後どうあるべきでしょうか。
森 日医が公益法人を目指すということもあるし、国民が医療の専門家集団として真に信頼してくれるようにならないといけない。健康は持続的に確保していく必要がある。それには患者さんと協働で取り組んでいかなければいけない。そのためには信頼されないと駄目です。信頼を確保するためには、医師会という本来の専門家集団としての在り方と政治活動は明瞭に峻別しないといけない。ただ、今回、立候補のときにも申し上げましたように、日医の会長選挙が政治や政権に左右されてはならないという信念を持っています。ところがこれは誤解されている。政治と距離を置くとか、中立に動くとかいうふうに取り上げられているんですが、そんなことは一つも申し上げておりません。専門家集団としてもやはり政治に訴えていくことは必要です。医師連盟というのは政治に直接かかわる活動ですから。候補を選ぶとか、一緒に政治家を当選させるために動くとかいうのが連盟の仕事。政治に対して我々の考えを申し上げることは、日医でも当然やっていかなければいけない。そこを何か皆さん、誤解されている。僕の言っていることが言葉足らずという気もします。どなたかが中立とか、距離を置くとかいう報道をされている(笑)。私はそんなことは一言も申し上げておりません。2月1日以降も、それ以前もそうです。日医会長選挙自体が政治に左右されてはいけない。政治に左右されたことで今回の混乱を招いているのですから、そこを是正したい。ところが、マスコミは政治絡みでしか話を聞いてくれません(笑)。
──出馬表明の記者会見では「今の2候補では選択肢がない」と発言されました。
森 政権交代でぽんと民主党に振れてしまうと、また同じことを繰り返すのではないか。4年間は民主党政権が続くでしょうが、政治とカネの問題が出てきている。医師にとっても、国民にとっても不幸なことです。国民の信頼のない日医、医療などまったく意味がない。三極で選挙をやると、分裂の危険性もある。ただ、医療の専門家集団として多くの会員の思いをくみ上げられる日医にしていかなければ、いずれにしても崩壊は免れない。それなら、やれるだけのことをやってみようということで出馬しました。
(2月15日、東京・中央区で収録)
【プロフィール】
森洋一(もり・よういち)
1947年生まれ。72年京都大学医学部卒業。京都大学附属病院、国立京都病院(現京都医療センター)小児科勤務を経て81年から森小児科医院を開業。2006年から京都府医師会長。
2010年2月24日 10:10 | 医師会・医療・医療政策・政治


