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浜六郎の臨床副作用ノート~神経障害(1)~

浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表


 日本で1万人以上の認定被害者を出した神経障害SMONの原因がキノホルムと公式に認識され、市場から回収された1970年以降も関連を否定する意見は根強かった。
 薬剤性の神経障害のうち新しいところで、コレステロール低下剤による神経障害をまず取り上げる。

【症例】(1)-(3)
 神経障害発症時35歳の男性(Aさん)。身長178cm、体重85kg前後。普段は健康で活動的な営業マン。32歳時の健診で総コレステロール値が254mg/dLと指摘され、ベザフィブラート(ベザトール)が処方された1カ月間に急性咽喉頭炎や精巣上体炎を発症し処方を中止。翌年の健診でも257mg/dLのためベザトールが再開された。開始2週間後に扁桃炎を発症した。2カ月後、総コレステロール値が252mg/dLのため、プラバスタチン(メバロチン)10mgが上乗せされ、尿路感染症が生じた。ベザトールとメバロチンの併用3カ月目には、腰痛とともに両足に脱力を生じ、整形外科を受診したが、椎間板ヘルニアの所見はなかった。1年後には帯状疱疹にも罹患した。1年半後には、ベザトールあるいはメバロチン単独処方となり、肉類など食事が制限され、総コレステロールが183mg/dLとなり、メバロチンが隔日服用となったが、全身倦怠感が強く、立っているのも容易でない状態となり、自分の判断でメバロチンを中止。その約10日後に入院。CKが302 IU/Lに上昇(その後71 IU/Lまで急速に低下)。
 入院約1カ月後、尿閉を生じて導尿を要し、神経因性膀胱と診断された(1カ月間の自己導尿の後、自尿が可能となった)。上肢筋力正常~やや低下、つぎ足歩行不安定、筋電図で一部に神経原性の変化が認められた。膝蓋腱反射は正常であり、末梢神経障害のみなら矛盾するが、中枢神経障害を併発しているなら矛盾なく説明可能な病態を呈していた。
 そのほか、めまい、下肢のしびれ、咽頭・喉頭の閉塞感、嚥下困難なども相当長期に持続している。脊髄液検査では、細胞数正常、タンパク質のみが54mg/dLと、やや上昇していた。握力は右32.7kg、左26.9kgと、体格に比べて著明に低下。
 まとめると、Aさんに生じた症状は、感染症のほか、筋肉症状と神経症状である。神経症状は、筋萎縮および筋力低下(脱力)、感覚障害(四肢のしびれ)、排尿障害(尿閉)ならびに嚥下障害などであり、膝蓋腱反射が正常であったことから、末梢神経障害のみならず中枢神経障害を併発していた可能性が強く疑われた。そのほか、脱毛や白髪の増加も認められた。
 本例は、コレステロール低下剤による害反応(副作用)として医薬品副作用被害救済制度による医療費および医療手当の給付請求がなされたが認定されず国を被告として裁判となった。

コレステロール低下剤と神経障害との因果関係
【1】コレステロールは細胞膜、神経髄鞘の膜構造の重要な構成成分である。
【2】スタチン剤は、ミトコンドリアでの電子伝達系の主要補酵素ユビキノンの合成を阻害し、神経細胞のエネルギー代謝の障害を起こして末梢神経障害を発症させ得る。
【3】糖タンパクの原料となるドリコールの合成を阻害し、神経異常を起こし得る。
【4】添付文書にもスタチン剤が末梢神経障害を引き起こし得ることが明記されている。
【5】スタチン剤により末梢神経障害を生じた旨の複数の症例報告が存在する。
【6】スタチン剤と末梢神経障害との疫学的関連を証明した医学論文が複数存在する。
 国側証人は身体化障害(以前「ヒステリー」と呼ばれていた病態)や椎間板ヘルニアと主張し、因果関係も否定したが、判決では、しびれなど感覚障害、排尿障害、嚥下障害などについても、筆者らの鑑定意見、鑑定意見書、鑑定証言の主張をほぼ全面的に採用して、神経障害による症状とし、プラバスタチンとの因果関係を認めた(4)。

コレステロール低下剤による中枢神経障害(5)
 スタチン剤による神経障害については、末梢神経障害だけでなく中枢神経障害も起こし得る。臨床症状がない時期に、すでに病理学的には軸索変性を高率に認めるという極めて重要な所見がスタチン剤のひとつロバスタチンの動物実験で認められている(6)。これはコレステロール低下剤による中枢神経障害の特徴として極めて重要な点と考える。
 従って、コレステロール低下剤により、筋肉障害や末梢神経障害だけでなく、中枢神経障害が起こり得ることは、ほぼ明瞭であった。
 末梢神経障害の臨床例の報告は、93年にはオーストラリアの国内モニタリングセンターからすでに38例のニューロパシー例が報告され始めていた(7)。2005年には、WHO(世界保健機関)のウプサラ・モニタリングセンターには、合計731例のスタチン剤に関連したニューロパシーが報告されていた。疫学調査では、1件では有意ではないもののニューロパシーとの関連の傾向を認め(8)、2件の症例対照研究では有意の関連だけでなく、用量反応関係をも認め(9)、(10)、うち1件(9)では確実例で累積用量が多い場合、27.2(95%信頼区間:8.4-88.4)という高いオッズ比を認めた。このほか、オランダのモニタリングセンターの報告(11)ではオランダモニタリングセンターに集まった症例や、WHO症例の報告オッズ比(ROR:reporting oddsratio注)が有意の関連を認めた(WHOの末梢性ニューロパシー症例では報告オッズ比5.05、95%信頼区間:4.59-5.56)。
 末梢性神経障害があっても、中枢性障害を合併すれば腱反射が低下しない場合もあり得る。従って、スタチン剤使用中、痛みを生じた場合には、筋肉障害、末梢性および中枢神経障害の可能性も含めて検討が必要である。

人でALS様中枢神経障害の多発
 ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、中枢神経障害の典型例で、筋萎縮が生じ、腱反射が亢進する。
 ALS様の中枢神経障害の報告が多く集まっていることを最初に報告したのは、WHOである(12)。非常にまれな病態であるALS様疾患の害反応(副作用)報告がWHOに172例集積され、そのうち43例でスタチン剤が関係していた。この中の40例中34例では、原因薬剤としてスタチン剤のみが挙げられていた。末梢神経障害の報告5534例中、スタチン剤が関係していたのは547例であった。
 年齢を調整しても、このような高率の報告が認められ、パーキンソン病や錐体外路症状、多発硬化症では、こうした関連は認められなかった。その後、FDA(米国食品医薬品局)(13)や、カリフォルニア大ロサンゼルス校(14)からも、基本的に同様の調査結果が報告されている。
 結論として、WHO(12)では以下のように述べている。関連があり得るとしても発症はまれであり、因果関係の確立にはさらに調査を要する。しかし、スタチン剤使用中にALS様の神経筋疾患を認めたならば、中止を試みることを提唱する。なぜならば、進行が停止したり、可逆的な例もあり得るが、予後は不良だからである。

参考文献
1)浜六郎、下げたらあかん!コレステロールと血圧、日本評論社、2004
2)福田実、私は薬に殺される、幻冬舎、2003
3)福田実、たった一人で国・薬害裁判に勝つ、日本評論社、2008
4)浜六郎、木元康介、別府宏圀:TIP,23(5):53, 2008
5)浜六郎、別府宏圀:TIP, 22:22, 2007
6)Berry PH et al. Am J Pathol. 132:427-43(1988)
7)Phan T et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 58:625-8 (1995)
8)Gaist D et al. Eur J Clin Pharmacol. 56:931-3 (2001)
9)Gaist D et al. Neurology. 58:1333(2002)
10)Donaghy M.et al.Neurology. 58:1321(2002)
11)de Langen JJ et al. Neth J Med. 64:334 (2006)
12)Edwards IR et al. Drug Saf. 30:515(2007)
13)Colman E, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 17:1068(2008)
14)Golomb BA, et al. Drug Saf. 32:649-61(2009)
注:RORとは、ある特定薬剤の、ある害反応例数/他害反応例数のオッズと、データベース内にある他のすべての薬剤の同様オッズとの比。

2010年2月 1日 11:50 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート

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