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浜六郎の臨床副作用ノート~薬剤による肺傷害・障害(4)~

浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表


 一見無関係にみえる病気が、実は薬剤の副作用による害であることがしばしばある。その典型例が、薬剤性悪性症候群に合併した肺炎だ。今回は、死因が肺炎であり副作用死として認定されなかったが、筆者の意見書により副作用死と認定された、悪性症候群に伴う肺炎による死亡について述べる。

症例
 Aさんは、60歳で定年退職し、2年後から軽いうつ症状で受診したBクリニックで、うつ病として抗うつ剤、抗不安剤、睡眠剤などが処方されていた。受診約3年後に出現した皮下のチカチカ感の訴えが「セネストパシー」(幻痛様体感)と診断され、当初はブロムペリドール(商品名・インプロメン)、その後ピモジド(商品名・オーラップ)が開始された。当初はオーラップ(1mg)3錠をビペリデン(商品名・アキネトン)3錠とともに併用されていた。その後、アキネトンは3錠のまま、オーラップ(1mg)が漸増され6錠に達した後、排尿障害、パーキンソン症状、嚥下困難、筋強剛などが増強し、1人ではトイレに行けなくなり、誤嚥、寡黙、無動などを生じた。
 その後、ピンク色の尿(ミオグロビン尿と思われる)を失禁し、悪寒戦慄を伴わない体温上昇や大量の発汗などがあり、意識消失はないものの、筋強剛状態のまま転倒したため救急車でC病院に搬送された。受診時はショック状態、呼吸不全(SpO2 75%)、胸部レントゲン上肺炎が認められCRP 37.7mg/dL、気管内挿管、昇圧剤が使用されたが24時間以内に死亡した。受診したC病院医師による死亡診断書で、死因は「肺炎」とされたが、経過からして、明らかにオーラップによる悪性症候群に、ショック、呼吸不全、肺炎(および低酸素性非心原性肺水腫)を合併して死亡したものと考えられる。

悪性症候群による直接死因は種々
 悪性症候群は、後述するように、「筋強剛や振戦などの錐体外路症状に、異常高熱や発汗亢進、頻脈などの自律神経症状、さらには意識障害などを主徴とする症候群」である。あくまで「症候群」であり、生命が絶たれるとすれば、それら症状が増強して、体の主要な臓器不全が生じた結果である。
 実際の症例で報告されている死因としては、ショックと肺炎、呼吸不全を合併したような例のほか、尿路感染症(尿閉により尿路感染症を起こしやすい)、心筋梗塞、致死的不整脈、消化管出血、肝不全、腎不全(大量の筋崩壊による急性腎不全)などが報告されている(多数の文献が存在するが割愛する)。呼吸不全による低酸素性非心原性肺水腫を合併し得るため、これが肺炎とされる場合もあり得る。
 従って、Aさんの死亡時に肺炎があったことをもって、死因は「悪性症候群」ではなく「肺炎」とするならば、悪性症候群による死亡はあり得ないことになる。
 文献1には悪性症候群に伴って肺炎を合併した例が数例報告されている。チアプリド使用10日目より発熱、筋強剛、発汗、呼吸促迫が出現したため、抗パーキンソン剤、ダントロレンなどを使用後CPK値が著明に低下したが、重篤な細菌性肺炎を合併して死亡した72歳男性、チアプリドを使用中に軽度パーキンソン症状が持続したが、レボメプロマジン使用後1カ月目で突然発熱、CK上昇、抗パーキンソン剤、ダントロレンなどの使用でCK軽減、筋強剛も軽快したが、重篤な細菌性肺炎を合併して発症3日後に死亡した75歳男性例などである。

錐体外路症状、カタトニア、悪性症候群は一連の疾患
 一般に知られている悪性症候群の診断基準は、完成された悪性症候群のものである(2)。 現在は、錐体外路症状が重篤化することで悪性症候群にまで進展し、致死的となり得ると理解されるようになってきた(3,4)。すなわち、悪性症候群を独立した症候群と見なさず、錐体外路症状が重症化したもの、あるいは「発熱を伴う錐体外路症状群」とのとらえ方である。
 Woodburyら(3)は、これまでの錐体外路反応や神経遮断剤カタトニア、あるいは悪性症候群の文献をレビューし、神経遮断剤カタトニアは、錐体外路反応から軽症悪性症候群、さらに重症悪性症候群へと進展するまでの一連の過程の一つの段階にある病態であり、錐体外路症状のみの第1段階、神経遮断剤カタトニアの第2段階(筋強剛増強、歯車現象出現、焦燥、興奮、せん妄など)、軽症悪性症候群の第3段階(発汗、頻脈、尿失禁、流涎など)、完成された悪性症候群の第4段階、致死的な悪性症候群である第5段階の5段階に分類した。

悪性症候群診断の際の注意
 悪性症候群の診断に際して、他の疾患と鑑別することは大切だ。しかし、例えば感染症は、悪性症候群が重症化した結果として呼吸抑制や排痰が困難になり呼吸器感染症を起こしやすくなり、排尿障害が生じて尿路感染症を起こしやすくなる。強い緊張のために、血圧が上昇して心筋梗塞を起こしやすくなり、原因薬剤の血中濃度の上昇で不整脈も生じやすくなっている。感染症がなくとも白血球や好中球数、桿状核球の増加があり、あたかも感染症を思わせる検査所見も得られる。これらの所見があり、実際に感染症が存在しても、悪性症候群を否定する根拠とはなり難い。発熱を伴う筋強剛を見たなら、感染症の可能性を一応念頭におくとしても、「錐体外路症状から重篤な悪性症候群に進展する可能性」を否定してはならない。

悪性症候群の予防と治療
 悪性症候群が錐体外路症状から神経遮断剤カタトニアを経て生じるため、悪性症候群の予防は、筋強剛など錐体外路症状段階で気付き悪性症候群への進行防止が最も重要である3,4)。
 治療方法は、先に挙げた錐体外路症状から悪性症候群に至る5段階の各段階で異なる(3,4)。
 第1段階は、神経遮断剤の中止や支持療法を実施するだけ、あるいはビペリデンなど抗コリン剤を併用することで症状は治まる。QT延長傾向や心電図上心筋傷害所見などがあり、致死的不整脈の危険が高い患者ではベンゾジアゼピン剤の方が安全である。
 第2段階は、早期に診断し、抗精神病剤を中止できたら、抗コリン剤の増量で対処し得る。無効ならばベンゾジアゼピンを使用する。
 第3段階は「悪性症候群の前駆症状」とか「軽症悪性症候群」と呼ばれる場合もある段階で、治療には抗コリン剤とベンゾジアゼピンを用いる。
 第4段階では、ブロモクリプチンやダントロレンが必要だ。
 第5段階では、ほとんど不可逆的である。中枢(視床下部-延髄)の体温調節機能が破壊されるほどに高熱となり、一種の熱中症の状態を呈してくる。このような最重症例では、筋の強剛が持続している限りは解熱剤を使用しても、物理的に冷却しても体温は低下しない。ベンゾジアゼピン剤やダントロレンを使用し、物理的に強力に冷却するしか解熱の方法はない。
 再度強調するが、悪性症候群を予防する重要な鍵である錐体外路系症状をすばやく発見し、不可逆的悪性症候群に進行するのを防止しなければならない。発熱を伴う筋強剛を見たなら、感染症の可能性を念頭におくとしても、まず、「錐体外路症状から重篤な悪性症候群に進展する可能性」を考慮し、錐体外路症状に対する治療を速やかに実施する。遅れてはならない(詳細は、文献(3))。

参考文献
1)鈴木衣穂子ら、精神神経学雑誌、100(8):387-397、1998
2)American Psychiatric Association, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed, 1994
3)オーストラリア治療ガイドライン委員会著、医薬品・治療研究会他編訳、向精神薬治療ガイドライン(原著4版改訂増補版)、NPO法人医薬ビジランスセンター、2004年
a)訳補2:神経遮断剤性悪性症候群について(p260~268)
4)Woodbury MM et al. J Am Acad Child Adlesc Psychiatry 31:1161-1164, 1992
5)Dukes NMG ed:Side Effects of Drugs, 12th ed, Elsevier Science Publishing Co Inc, New York, 1992

2010年1月 6日 10:05 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート

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