アステラス製薬 業績後退の中、足元脅かす2010年問題と発明訴訟
「医薬品2010年問題(10年問題)」の直撃を受けている製薬企業は少なくない。業界大手のアステラス製薬もその一つである。
10年問題とはこの時期を中心に集中的に欧米で大型先発薬の特許が切れ、急速にジェネリックと入れ替わることによって製薬企業に収益減など甚大な影響をもたらすもの。
武田薬品工業の抗潰瘍薬「タケプロン」が09年に、エーザイのアルツハイマー治療薬「アリセプト」が10年に、11年には武田薬品の糖尿病薬「アクトス」など、いずれも売り上げ1000億円級の大型医薬品の特許が切れる。どのくらいのペースでジェネリックが出て入れ替わるかは薬品によって異なるが、ごく短期間で3.5割は売り上げを落とすといわれている。1年で9割も売り上げを落とした米国メーカーもある。
今後数年で売り上げは半減へ
アステラス製薬も例外ではなく、08年4月に免疫抑制剤の「プログラフ」の特許が切れた。ピーク時1000億円を超えた大型医薬品だったが、期中に早くもジェネリックが登場し、大きく売り上げを落としてしまった。ジェネリック発売前は8億5000万ドルの売り上げが、発売後1年経った今期は6億6000万ドルまで売り上げを落とす見通しで、この流れが加速していくことは必至。今後数年でプログラフの売り上げは半減以下になりそうだ。
これを受けて今期のアステラス製薬の業績も増収ながら減益となる。10年3月期の売り上げは9760億円と前期比1%の増収だが、営業利益は20%減の2000億円となる見込み。単純にいえば、プラグラフの売り上げはすべて利益で、減少分がそっくり利益のマイナスにつながったことになる。これに加えてアステラスのもう一つのブロックバスターである前立腺肥大症治療薬の「ハルナール」も、10年3月に特許が切れる。切れると同時にジェネリックが発売されることが決まっていて、来期も大幅に売り上げを落とすことになりそうだ。
10年問題に揺さぶられるように、アステラスは次々と特許紛争に見舞われている。07年には心機能検査薬「アデノスキャン」のジェネリックを出したテバファーマシューティカルズを特許侵害で訴えていたが和解。08年には国内では経口セフェム系製剤セフゾンのジェネリックで大洋薬品工業と和解。さらに09年9月には過活動膀胱障害薬「ベシケア」でテバを提訴している。
それぞれの和解の詳細は明らかになっていないが、07年のテバとの和解では、アデノスキャンは12年まで特許が有効とされた。09年のベシケアに至っては18年まで有効となっている。特許切れのはるか以前にジェネリックを出そうというのだから、テバは明らかに確信犯。このくらいのずうずうしさがないとジェネリック業界トップには立てないということか。
ジェネリックの猛威に対して先発薬の防衛策としての訴訟戦術。もっともベシケアについてはアステラス側もどうあっても譲れないところだ。
ベシケアはハルナール、プログラフに次ぐアステラスの世界戦略の柱。欧州では04年、米国では05年に発売された(日本では06年)。過活動膀胱治療薬としての評価は高く、日欧では1位、米国でも2位の高シェアを占め、売り上げ1000億円も間近とされる大型医薬品だ(09年3月期実績で売り上げ714億円)。名実ともに看板新薬とあって、侵害してくるものに対しては徹底的に対抗するという意思の現れが訴訟という結果につながっているものと見られる。
さらに09年10月にはハルナールの特許侵害で米国のジェネリック会社のインパックスラボラトリーズと和解し、ハルナールのジェネリック発売を10年3月まで遅らせることで合意している。これほど立て続けにジェネリック製造各社を提訴し和解しているのは、特許切れを虎視眈々と狙うジェネリック側が揺さぶりをかけているからだ。大型医薬品の特許切れが迫ると、こうした特許紛争が頻発するのは珍しいことではない。プログラフとハルナールが薬効の高い有望な医薬品である分、ジェネリックメーカーの攻勢は今後も強まっていくことが予想される。アステラスの業績は大きく後退することになるだろう。
弊誌の取材に対し、アステラス広報部は「医薬品新薬については特許切れはつきもの。自社研究による創薬と他社からの導入を二本柱とした日々の戦略・戦術がそのまま対策です。効果は上がっています」と回答している。
もっとも、先の過活動膀胱治療薬のベシケアの好調な成績と、後継薬の過活動膀胱治療薬の「YM178」がフェーズⅢ段階に入り、来年度中に日米欧で承認申請を行う方針を発表したことは好材料。中期的にはジェネリックに食われた売り上げの落ち込みをカバーすることが期待されている。
発明者が対価を求めて地裁に提訴
そこにもう一つ、身内から頭の痛い問題が浮上してきた。ハルナールに関して、開発者が発明対価を求めて提訴したのだ。
ハルナールは旧山之内製薬の医薬品。山之内の研究者が80年に主成分である塩酸タムスロシンを発明した。特許そのものは会社側に帰属。発明者は対価として330万円を受け取り、特許を受ける権利を会社に譲渡していたからだ。ハルナールは93年に発売され、全世界で累計2兆円の売り上げを叩き出すブロックバスターに成長した。ここに至って、研究者は十分な対価を受け取っていないとして、10億円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。
裁判はまだ始まったばかりだが、アステラス製薬としてもそう簡単に妥協するわけにはいかず、長引く可能性もある。医薬品メーカーにとって研究開発は生命線。研究者の要求を唯々諾々と受け入れてしまえば、研究開発体制はずたずたになってしまう。もちろん適正な発明対価は必要だろうが、発明時点で収益を生んでいるわけではないし、不確定の要素が多い。それらを考えれば、どの水準が適正対価なのかの線引きが難しいところ。
「97年、旧山之内製薬時代にライセンス収入や売り上げ総額に応じて対価を支払う『職務発明制度』をスタートさせました。アステラスでも同様の施策を受け継いでいます」(アステラス広報部)
足元の10年問題や発明対価訴訟を解決しなければ、次の成長へのステップは見えてこない。対処を誤れば、命取りにもつながりかねないところだ。

10年問題とはこの時期を中心に集中的に欧米で大型先発薬の特許が切れ、急速にジェネリックと入れ替わることによって製薬企業に収益減など甚大な影響をもたらすもの。
武田薬品工業の抗潰瘍薬「タケプロン」が09年に、エーザイのアルツハイマー治療薬「アリセプト」が10年に、11年には武田薬品の糖尿病薬「アクトス」など、いずれも売り上げ1000億円級の大型医薬品の特許が切れる。どのくらいのペースでジェネリックが出て入れ替わるかは薬品によって異なるが、ごく短期間で3.5割は売り上げを落とすといわれている。1年で9割も売り上げを落とした米国メーカーもある。
今後数年で売り上げは半減へ
アステラス製薬も例外ではなく、08年4月に免疫抑制剤の「プログラフ」の特許が切れた。ピーク時1000億円を超えた大型医薬品だったが、期中に早くもジェネリックが登場し、大きく売り上げを落としてしまった。ジェネリック発売前は8億5000万ドルの売り上げが、発売後1年経った今期は6億6000万ドルまで売り上げを落とす見通しで、この流れが加速していくことは必至。今後数年でプログラフの売り上げは半減以下になりそうだ。
これを受けて今期のアステラス製薬の業績も増収ながら減益となる。10年3月期の売り上げは9760億円と前期比1%の増収だが、営業利益は20%減の2000億円となる見込み。単純にいえば、プラグラフの売り上げはすべて利益で、減少分がそっくり利益のマイナスにつながったことになる。これに加えてアステラスのもう一つのブロックバスターである前立腺肥大症治療薬の「ハルナール」も、10年3月に特許が切れる。切れると同時にジェネリックが発売されることが決まっていて、来期も大幅に売り上げを落とすことになりそうだ。
10年問題に揺さぶられるように、アステラスは次々と特許紛争に見舞われている。07年には心機能検査薬「アデノスキャン」のジェネリックを出したテバファーマシューティカルズを特許侵害で訴えていたが和解。08年には国内では経口セフェム系製剤セフゾンのジェネリックで大洋薬品工業と和解。さらに09年9月には過活動膀胱障害薬「ベシケア」でテバを提訴している。
それぞれの和解の詳細は明らかになっていないが、07年のテバとの和解では、アデノスキャンは12年まで特許が有効とされた。09年のベシケアに至っては18年まで有効となっている。特許切れのはるか以前にジェネリックを出そうというのだから、テバは明らかに確信犯。このくらいのずうずうしさがないとジェネリック業界トップには立てないということか。
ジェネリックの猛威に対して先発薬の防衛策としての訴訟戦術。もっともベシケアについてはアステラス側もどうあっても譲れないところだ。
ベシケアはハルナール、プログラフに次ぐアステラスの世界戦略の柱。欧州では04年、米国では05年に発売された(日本では06年)。過活動膀胱治療薬としての評価は高く、日欧では1位、米国でも2位の高シェアを占め、売り上げ1000億円も間近とされる大型医薬品だ(09年3月期実績で売り上げ714億円)。名実ともに看板新薬とあって、侵害してくるものに対しては徹底的に対抗するという意思の現れが訴訟という結果につながっているものと見られる。
さらに09年10月にはハルナールの特許侵害で米国のジェネリック会社のインパックスラボラトリーズと和解し、ハルナールのジェネリック発売を10年3月まで遅らせることで合意している。これほど立て続けにジェネリック製造各社を提訴し和解しているのは、特許切れを虎視眈々と狙うジェネリック側が揺さぶりをかけているからだ。大型医薬品の特許切れが迫ると、こうした特許紛争が頻発するのは珍しいことではない。プログラフとハルナールが薬効の高い有望な医薬品である分、ジェネリックメーカーの攻勢は今後も強まっていくことが予想される。アステラスの業績は大きく後退することになるだろう。
弊誌の取材に対し、アステラス広報部は「医薬品新薬については特許切れはつきもの。自社研究による創薬と他社からの導入を二本柱とした日々の戦略・戦術がそのまま対策です。効果は上がっています」と回答している。
もっとも、先の過活動膀胱治療薬のベシケアの好調な成績と、後継薬の過活動膀胱治療薬の「YM178」がフェーズⅢ段階に入り、来年度中に日米欧で承認申請を行う方針を発表したことは好材料。中期的にはジェネリックに食われた売り上げの落ち込みをカバーすることが期待されている。
発明者が対価を求めて地裁に提訴
そこにもう一つ、身内から頭の痛い問題が浮上してきた。ハルナールに関して、開発者が発明対価を求めて提訴したのだ。
ハルナールは旧山之内製薬の医薬品。山之内の研究者が80年に主成分である塩酸タムスロシンを発明した。特許そのものは会社側に帰属。発明者は対価として330万円を受け取り、特許を受ける権利を会社に譲渡していたからだ。ハルナールは93年に発売され、全世界で累計2兆円の売り上げを叩き出すブロックバスターに成長した。ここに至って、研究者は十分な対価を受け取っていないとして、10億円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。
裁判はまだ始まったばかりだが、アステラス製薬としてもそう簡単に妥協するわけにはいかず、長引く可能性もある。医薬品メーカーにとって研究開発は生命線。研究者の要求を唯々諾々と受け入れてしまえば、研究開発体制はずたずたになってしまう。もちろん適正な発明対価は必要だろうが、発明時点で収益を生んでいるわけではないし、不確定の要素が多い。それらを考えれば、どの水準が適正対価なのかの線引きが難しいところ。
「97年、旧山之内製薬時代にライセンス収入や売り上げ総額に応じて対価を支払う『職務発明制度』をスタートさせました。アステラスでも同様の施策を受け継いでいます」(アステラス広報部)
足元の10年問題や発明対価訴訟を解決しなければ、次の成長へのステップは見えてこない。対処を誤れば、命取りにもつながりかねないところだ。

2010年1月 6日 16:00 | アステラス製薬・医薬品メーカー・経済


