浜六郎の臨床副作用ノート~薬剤による肺傷害・障害(3)~
浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表
2回にわたり薬理学的性質が関係した急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、非心原性肺水腫、肺高血圧症などを起こし得る薬剤として、ゲフィチニブなどEGFR阻害剤、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)、オセルタミビル(タミフル)など中枢抑制剤、止血剤の使用や抗凝固作用のある薬剤の中断による肺傷害・障害について述べてきた。今回はアレルギー・免疫異常による肺傷害・障害について述べる。
症例(参考文献1)
86歳男性。自転車で転倒し、腰椎圧迫骨折で入院。排尿困難のため導尿したが困難なため、バルーンカテーテルで経尿道的持続導尿がなされた。前立腺炎との診断によりセフピミゾール(商品名・アジセフ、現在は販売されていない)が3日間1日4g、その後約2週間1日2g(1g×2)の同剤が使用された。開始前には0%であった好酸球が、4日目2.8%、11日目5.1%、17日目11.0%と上昇した。18日目から抗生物質を変更(セフミノクス、商品名・メイセリン)した結果、変更12日目に好酸球が1%に低下した。
その後、再度アジセフが開始され、再開7日目に血沈増加とCRP上昇(10.1mg/dL)、好酸球増多(12.4%)が認められ、その翌日の胸部レントゲンで、すりガラス状の陰影が認められた。その翌日にはアジセフが中止されたが、中止翌日には動脈血ガス分析で、著明な低酸素血症(PaO2:30.3 Torr)が認められ、その翌日に患者は死亡した。死亡日のCRPは23.6mg/dLと上昇していた。2度目の好酸球増多と胸部レントゲン上にすりガラス状陰影が認められた後も、ステロイド剤は使用されなかった。
アレルギー・免疫異常による肺傷害・障害の成因・機序
肺は、肺胞細胞と基底膜、間質(毛細血管内皮細胞、内膜下組織、血管平滑筋、外膜)、細気管支(粘膜細胞、粘膜下組織、筋層、外膜)、これらの組織中に存在する線維芽細胞、マクロファージ、マスト細胞、好酸球、好塩基球、リンパ球などで構成されている。これらの成分、細胞間の接着因子、レセプターなどもそれぞれ抗原として働き得る。
薬剤は、それ自体あるいは代謝産物がこれら生体内の種々の蛋白成分と結合してハプテンとして働き、抗原となり得る。形成される抗体がIgE抗体ならアレルギーのタイプはI型(即時型)に、また、補体とIgG抗体が関与すればⅡ型アレルギーになり、免疫複合体を形成すればⅢ型(血清病型)、抗原にT細胞が感作されるとⅣ型(遅延型過敏反応)が生じる(参考文献2)。
病像は、I型は多くの場合、IgE抗体がマスト細胞に親和性があるためアナフィラキシーや喘息の形で発現する。Ⅱ型やⅢ型によるアレルギー反応の病理像は、抗体がどのような分子や組織を認識するかによって決まるようである。高度の腎炎および肺出血を合併することで知られるGoodpasture症候群は、基底膜に対する抗体が沈着することによって起こるⅡ型アレルギーである。カビ抗原によるアレルギー性肺胞炎は肺胞内で生じた免疫複合体、また急性・慢性の肺病変を呈することの多い全身性血管炎症候群(systemic vasculitis syndrome)は血管内に形成された免疫複合体によるⅢ型アレルギーを生じ得る。Ⅳ型は接触型、ツベルクリン型の反応のほか、慢性の肉芽腫型病変を形成する(参考文献2)。
好酸球性肺炎でも慢性型があり、アレルギー性肉芽腫性血管炎は全身性血管炎症候群の一種である。アレルギーの型と生じる病型の間は相当複雑であるようだ。
薬剤性アレルギー性肺病変の型
薬剤による肺病変は、アナフィラキシーや喘息を除けば、び慢性肺臓炎型(間質性肺炎型)と、全身性血管炎症候群に伴うものに大きく分けることができよう(参考文献3)。アレルギー性肺胞炎の可能性も理論的にはあり得るが、明瞭な形で記載された文献を見つけることはできなかった。
薬剤性のび慢性肺臓炎型では、急性・慢性の肺病変を呈するが、好酸球増多を伴う場合と伴わない場合がある。提示した症例は、好酸球増多を伴うものである。
全身性血管炎症候群では、アレルギー性肉芽腫性血管炎型(Churg-Strauss症候群)、Wegener肉芽腫症型などがある。そして、薬剤性の全身性血管炎症候群でも、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となることがしばしばある。過敏性肺炎型,PIE症候群型,閉塞性細気管支炎・器質化肺炎(BOOP)型などの病名が付けられる場合も少なくない。
全身性血管炎症候群とANCA
ANCAは、好中球細胞質に対するIgG型自己抗体である。間接蛍光抗体法で、好中球細胞質がび慢性に粒状に染色されるC-ANCA (cytoplasmic-ANCA)と、好中球の核周辺が強く染色されるP-ANCA(perinuclear-ANCA)がある。C-ANCAの対応抗原は細胞質のアズール顆粒に含まれるproteinase-3(PR-3)であるためPR-3-ANCAと呼ばれ、P-ANCAの対応抗原はmyeloperoxidase(MPO)であるため、MPO-ANCAと呼ばれる。種々の薬剤によって、これら(特にMPO-ANCA)が陽性となる全身性血管炎症候群が起こり得る(参考文献4)。
抗生物質、特にミノサイクリンなどのテトラサイクリン剤やプロピルチオウラシルなどで、ANCA陽性の全身性血管炎症候群を起こし得る。
対処方法-アレルギー性でも感染には注意を
対処方法の基本は、早期に何らかの兆候に気づき、原因薬剤を中止することである。そのためには、初期症状や検査異常の特徴を把握しておく必要がある。
症例のように、特徴的な好酸球の増加を認めたら、薬剤アレルギーを疑う必要があり、そのときの経過から疑われる薬剤は避けなければならない。
全身性血管炎症候群では、全身の血管の炎症病変が生じ、腎臓や皮膚などほかの臓器にも炎症を生じ得るため、発疹を伴うことがある。
急性の発症では多くの場合、発熱を伴い、急性・慢性発症とも咳はほとんど必発である。感染症に伴い抗生物質などを使用していて、一度解熱・咳が軽減した後に再び発熱したり咳が増強したりした場合は、薬剤アレルギーを疑う必要がある。
原因薬剤を中止するだけで、大部分は解熱する。イブプロフェンやサリチル酸剤などNSAIDsやアセトアミノフェンのほか、多くの薬剤が原因になり得る。小柴胡湯などによる間質性肺炎も報告され、特にインターフェロンとの併用で重篤化し得る。H2ブロッカーも血管炎症候群に関与し得るが、H2ブロッカーそのものに対するアレルギーというより、ほかの薬剤によるアレルギー性病変の治癒を遅延させる。
好酸球増多を伴い、感染のない重篤なアレルギー性肺臓炎(間質性肺炎)はステロイド剤が好適応であるが、抗生物質による場合はもともと感染症が存在するため、感染との兼ね合いが難しい。
原因薬剤確認のため、薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST)は有用である(H2ブロッカーは除く)。ただし、ステロイド剤使用後は偽陰性になりやすいため、陰性ならステロイド剤の影響が消失してから再検査をする。
上記症例の場合、1回目使用時に好酸球増多が認められたため、原因と見られる薬剤を中止し、薬剤変更により好酸球は減少したにもかかわらず、当該薬剤を再開したことが重大な事態を招き、2回目の悪化兆候にもかかわらず原因薬剤中止が遅かったこと、ステロイド剤の好適応にもかかわらず使用されなかったことが残念である(参考文献1)。
くれぐれも、注意を怠らないように心掛けたい。
参考文献
1)大津史子、浜六郎、患者の訴え・症状からわかる薬の副作用、じほう、2007年
2)Roitt I. et al著、多田富雄監訳、免疫学イラストレイテッド(原著第5版)、南江堂、2000年
3)D.M. Davies et al ed. Davies's Textbook of Adverse Drug Reactions 5th ed. Chapman & Hall Medical London 1998
4)金井正光編著、臨床検査法提要、金原出版、1998年
2009年12月 1日 11:30 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート


