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浜六郎の臨床副作用ノート ~薬剤による肺傷害・障害(1)~

浜 六郎 NPO法人 医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表


 09Aインフルエンザ(注)は、例年の季節性インフルエンザに比較して重症肺炎が多く、高齢者より若い層の死亡が多いことが米国やメキシコから報告され、日本でもそれが一般的であるかのように報じられている1)。この「重症肺炎」の本態は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)であり、基本的には非細菌性である。脳にウイルスは検出されず高サイトカイン血症が脳症を起こすように、原因はウイルスそのものではなくサイトカインストームである。非ステロイド抗炎症剤(NSAID)は感染時にサイトカイン誘導を増強する2-4)。今回は、薬剤の性質が関係した肺傷害・障害につき述べる。

呼吸窮迫症候群(RDS)の発症機序
 RDSには新生児のRDS(NRDS)と新生児期以外の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)がある(どの年齢でも生じるので「成人呼吸窮迫症候群」ではなく、現在は「急性」を用いる)。
 未熟児では、Ⅱ型肺胞上皮細胞(Ⅱ型細胞)が未熟なため肺サーファクタントが不足し肺胞が虚脱、換気能が低下して低酸素血症をきたす。その結果、Ⅱ型細胞の機能がさらに低下し、サーファクタント産生低下、肺胞虚脱の経過をたどり悪循環に陥る(図1)8)。
 敗血症では、高サイトカイン血症のために広範に血管内皮細胞の傷害が起き、二次的に全身の臓器傷害、肺では肺胞細胞の傷害・障害をきたす。Ⅱ型細胞の傷害・障害が生じるとサーファクタントが欠乏し肺胞虚脱、肺胞浮腫を招き、換気能低下、低酸素血症、Ⅱ型細胞の機能低下、サーファクタント減少、肺胞虚脱と、NRDSと同様に悪循環に陥る(図1)。
 ゲフィチニブやエルロチニブなど上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤は、Ⅱ型細胞の自己増殖能を阻害してⅡ型細胞の機能低下、数の減少をきたし、サーファクタントを減少させ肺(胞)虚脱、換気能低下を招き、急性肺傷害の悪循環に陥ることがある。血管内皮細胞も同時に傷害・障害され得るが、Ⅱ型細胞が主である9)。
 放射線照射や化学療法剤系抗がん剤、シクロスポリンやタクロリムスなど免疫抑制剤は、血管内皮も肺胞細胞(I型、II型)も同時に傷害・障害するので、NRDSとARDSとの中間的機序である。
 まとめると、NRDSはⅡ型細胞の「未熟性」から病態が始まり、ARDSでは種々の外因による直接的・間接的なⅡ型細胞の傷害・障害から始まる。出発点は異なるが、サーファクタント欠乏を生じれば後の病態はほとんど同じである(図1)。

Ⅱ型細胞の他の機能と肺傷害・障害のタイプ
 Ⅱ型細胞には、①自己増殖による肺胞細胞(II型、I型)の補充②サーファクタント産生③水ポンプ作用④線維芽細胞増殖の抑制などの重要な機能がある。EGFR阻害によりⅡ型細胞のこれらの機能が阻害され、もともとの機能、傷害・障害の程度や速度に応じて種々の組み合わせで傷害・障害が生じる。
 生じ得る肺病変は、①急性肺虚脱②ARDS(もしくはびまん性肺胞障害:DAD)③狭義の間質性肺炎(IP)④肺線維症である。
 これらは、急性肺傷害・間質性肺障害症候群とも呼ぶべき病態である。
 ①急性肺虚脱:サーファクタントが一挙に欠乏すると広範囲な肺胞虚脱・無気肺が生じ呼吸不能となる。服用初日からでも呼吸困難、無呼吸となり死亡につながり得る。放射線、化学療法や体質などでもともとⅡ型細胞の予備が少なければ、わずかな影響でも電撃的な急性肺傷害を生じ得る。
 ②ARDS(もしくはDAD):上記ほど激しくないが急激に肺虚脱と水ポンプ作用が低下した場合、RDSの形をとると考えられる(図2)。また、感染時の高サイトカイン血症により生じたARDSでは、血管内皮が傷害・障害され、肺胞-毛細血管間のガス交換が障害され、基質的変化が乏しい時期から強い呼吸困難が生じる。そして1~2日後にⅡ型細胞の傷害・障害でびまん性に肺胞虚脱、肺胞水腫が生じると胸部X線写真上、スリガラス状の陰影となる。インフルエンザ時のARDSの典型例である。
 ③狭義のIP:肺胞虚脱と肺胞水腫に加えて、Ⅱ型細胞の傷害・障害により線維芽細胞の増殖抑制が除かれ、線維芽細胞が増殖、線維が増生する。肺胞虚脱、肺胞水腫、線維の増生を混じた病変が狭義の「間質性肺炎」である(図2)。
 ④肺線維症:肺胞虚脱や肺胞水腫よりも線維で置き換わる部分が多い場合には、肺線維症と呼ばれる病態となる(図2)。Ⅱ型細胞の傷害・障害が一時的な場合には、数日~2週間程度で線維芽細胞が増殖し組織を修復する。3~4週間目には増殖した線維芽細胞がⅡ型細胞の増殖因子EGF、KGF、TGF-αなどを誘導しⅡ型細胞を再生し、肺線維症は解消する。しかし、EGFRが持続阻害されると肺線維症は増強される。この過程は炎症反応を伴わないので抗炎症剤は無効である。特発性肺線維症は、おそらくⅡ型細胞の寿命が短いためで、抗炎症剤が無効であるのはこのためだ。
 なお、タミフルや睡眠時無呼吸症候群などにより呼吸抑制後に非心原性の肺水腫が生じるのは、低酸素血症によるⅡ型細胞の③水ポンプ作用の低下のためであるが、この点は次号に。

注:パンデミックになったと宣言されたインフルエンザウイルスを私は「2009A/H1N1ウイルス」5,6)、それによるインフルエンザを「09Aイン フルエンザ」と呼んでいる7)。南半球では流行は終了し規模は例年並み。日本の死亡率は例年の3割以下7)。重症とは程遠い。

参考文献
1)国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/case0902.html
2-4)浜六郎、敗血症-多臓器不全型ショック(1)-(3)、MediCon.1(10月-12月号)、2008
5)浜六郎、MediCon. 2(6):6-9, 2009
6)浜六郎、『薬のチェックは命のチェック』No35 2009.7.
7)浜六郎、同、No36 2009.10
8)Corrin B et al ed, Pathology of the lung, 2nd ed. Churchill Livingstone-Elsevier, 2005
9)浜六郎、TIP「正しい治療と薬の情報」23(9):93-97.2008



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2009年10月 2日 17:35 | 医療・浜六郎の臨床副作用ノート

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